四章

ピルと血液凝固、出産時奇形、不妊

「危険がないわけではないが、ピルの利点はその危険性よりもはるかに大きいのです。換言すれば、ピルは安全なのです。しかし、ある女性たちにとっては危険です。」293

ロンドン家族計画と健康のジョン・ギルボード博士

子宮頸癌と乳癌の原因になる他に、女性の健康状態をひどく傷める能力を備えるピルには、その他にも数多くの副作用があります。本章におけるその提示の順序は、特に血栓塞栓症による健康な心血管状態の悪化、妊娠直前のピル使用に起因する出産時奇形、子宮頸管粘液分泌へのピルの影響と、その結果として起こるピル使用直後の受胎能力低下とひいては受胎能力の減少。

4.1 ピルと血液凝固

血栓塞栓症的障害にピルが関係しているのではという心配は、1968年にさかのぼる医学文献中に見られます。1973年、ボストン共同薬品監視プログラムは、以下に気づきました。

「非使用者と比較して、経口避妊薬使用者が血栓塞栓症にかかる相対的危険率の推定は年間100,000人の使用者あたり11、経口避妊薬に起因する発作率の推定は60でした。」294

相対的危険率が11ということは危険率が、10倍もしくは1,000%増えるということです。研究者たちは、この増加が部分的には血液粘度の上昇と血小板の粘着性増加によるものとしました。これら二つの血液学的変化は「避妊剤のエストロゲン成分によるものでした。そしてプロゲステロン単剤を服用していた患者には見られません」295でした。

1980年、ミードと同僚たちは、一群のピル成分に起因する心血管と関連反応の疑いのあった2,040人の女性からのデータ分析について報告しました。彼らは「混合経口避妊薬を使用する女性における心血管疾患の危険増は、通常、エストロゲン成分のせいにされます」が、「おそらくプロゲストーゲンには、エストロゲン—プロゲステロン混合経口避妊薬と関連する心血管反応の危険増に関与するかも知れない新陳代謝的効果があるのでしょう」とも、示唆しました。296

ピルのプロゲストーゲンへのこの「責任転嫁」を正当化するために、ミードと同僚たちは以下を報告しました。

ノルエチステロン酢酸塩(プロゲステロン)服用量と、発作による死亡および虚血性心疾患の間には、顕著な積極的関連が見られました。297

血栓塞栓症に関するエストロゲンもしくはプロゲステロンへのこの責任転嫁は、興味深い展開です。それは以後の医学文献に繰り返し登場することになります。どちらに責任があるかというこの争いの震源地は、データ収集そのものではありませんでした。むしろ皮肉なことに、それは両方の薬品のせいであることを反映していました。つまり、両方のホルモンが最終的には関係があると見なされるようになったのです。後にこの点については詳しく触れることにしましょう。

1981年、ライデとベラルは、英国で1968〜1969年の間にピルを使用した23,000人の女性から集められたデータについて報告しました。研究者たちは、非使用者と比較してピル使用者の全循環器系疾病による死亡率が、320%(RR2.1)も高かったことを発見しました。彼らが疾病の諸下位区分に従ってデータを調べたとき、特に進行した脳内塞栓症、出血、塞栓症はピル非使用者と比較して、使用者の場合は、110%(RR2.1)も高かったのです。虚血性心臓疾患の相対危険率は、非使用者と比較すると3.9、つまり290%増加しました。298

これらの統計は、%が後ろについた数字として見るとき、どちらかと言えば冷たく、無意味に見えるかも知れません。しかし、この研究で対照グループ(非使用者)の死亡者が4人だったのに比べ、使用者の死亡者は10人いたと言えば、少し違って見えるかも知れません。生きた人々と異なり、統計は数字でしかありません。統計は死ななくても本当の人間は死ぬのです。

80年代のもう一つの重要な論文は、スーザン・ヘルムリッチと同僚たち(1987)によるものでした。この論文は、深静脈塞栓症もしくは肺塞栓症で入院した女性についての報告です。これらの女性は前月に混合ピルを使用していました。計算の結果、このグループのピルに起因する血栓塞栓症の危険増は710%(RR8.1)でした。299

この論文におけるもう一つの重要な発見は、低用量のエストロゲン成分が深静脈塞栓症を期待どおりに減少しなかったことです(脚注を見よ)。300

データは、最近経口避妊薬を使用していると、それが低用量エストロゲンの経口避妊薬であったとしても、非使用者と比較して、静脈血栓塞栓症の危険率が高くなることを示唆しています…エストロゲン用量減が、本当に経口避妊薬使用者の血栓塞栓症の危険率を減少したのか、未だに確認されていません。301

この点は、血塊を促進できるのがピルのエストロゲン系成分だけでないことを意味するので、非常に興味があります。もし、以前報告されたように、エストロゲン成分にも血栓塞栓症を促進する可能性があるのであれば、女性はピル自体からは安全でないように見えようというものです。

ピルのエストロゲン系成分の用量減少以他に、研究者たちは70年代と80年代に広く使用された「第二世代」プロゲステロン、つまりレボノルゲストレルとノルエチステローネなどに関連する心血管系疾病を、デソゲストレルとかゲストデーネなどの新しい「第三世代」プロゲステロンを開発して、減少しようとしました。

デソゲストレルとかゲストデーネは、以前のプロゲステロンと比較して顕著な改善を代表するとして推進されていたものです。特に、研究者たちは、これらの薬品にはプロゲステロン受容器を結びつける能力が比較的ある(ピルに誘発されるにきびが少なくなる)とか、炭水化物新陳代謝への影響が少ない、リポタンパク質新陳代謝を妨害しない、血圧に顕著な変化をもたらさない、などと報告していました。302重要なことは、彼らによると、デソゲストレルは、「凝血とフィブリノーゲン分解システムの変化をほとんど起こさないことが広く示されており、また血栓塞栓症系の障害の危険率上昇と関連していません。」303凝血とフィブリノーゲン両システムは、血塊・反血塊を相殺するシステムです。この二者があって、血液は安定して、しかも自由に流れるようになるのです。

しかし、西ドイツからの80年代中頃の報告は、この楽観主義が短命に終わるであろうことを示唆しました。

…血栓塞栓症の例が、最新のマイクロピル、フェモヴァン(ゲストデーネを含有)に関して報告されました。1987年と1989年の間に、ドイツから13例、英国から8例あり、各国で一人ずつ死亡者が出ました。疑惑は新しいプロゲステロンであるゲストデーネに向けられました。304

新タイプのプロゲステロンであるマーヴェロンも、深刻な健康上の問題と関連づけられました。

英国では1982年から1988年の間に、いくつかの血栓塞栓症の症例がもう一つのマイクロピル、マーヴェロンに関して報告されました。英国では6例の死亡を含む25例ありました。ドイツでは1981年から1988年の間に、2例の死亡を含む15例ありました。スウェーデンからは、死亡例こそないものの、5例が報告されました。305 

これらの新しい報告に対して、ドイツ連邦厚生省は1989年医学警戒情報を流して、第三世代プロゲステロンが、血栓塞栓症を引き起こしていたメカニズムを説明しようとしました。

フェモヴァン中のゲストデン(プロゲステロン)が高レベルに達し、それが1服用周期中に積算され、従って肝臓でのエチニルエストラジオルの分解に時間がかかる疑いがあります。306 

これが意味するのは、新しい第三世代プロゲストーゲンが、肝臓でのエチニルエストラジオル(エストロゲン)分解の「代謝障害」をすることを意味します。これが女性体内にエチニルエストラジオルが蓄積される原因になり、そのことが血液凝固メカニズムに悪影響を与え、報告にある栓塞栓症になった可能性があります。

この説明はそれ以前の研究を一つにまとめます。(すべての経口薬品と同じく)2種の薬品の間には肝臓を通過するとき効果を発揮する相互作用があります。混合ピル使用者に見られる血栓塞栓症の発症増を説明する三つの仮説の一つとして、わたしはこれを提案します。(凝血要因5と活性化されたプロテインCに関連する第三の仮説が、生物学的にはもっとも確かです。これは後に取り扱います)。

ドイツ厚生省の報告も、前に乳癌の記事で論じたもう一つの特徴に触れました。新しい第三世代プロゲストーゲンによる犠牲者の多くは、若くて、健康で、飲酒と喫煙の習慣もありませんでした。

これらの医学的報告と製薬会社が、薬品の健康に及ぼす影響を完全に公開していなかったとして、一団の女性たちによって起こされていたイギリスの集団訴訟(1995年4月)と偶然にも一致しているのは興味深いことです。この法的イニシアティブはテレビ調査班の興味をそそることになり、彼らは「過去2年に血栓塞栓症で死亡した8人の若い女性の死亡証明書を」調査することになりました。「どの女性の死因もピルでした。」307

同じ新聞記事で、ピルの世界的権威、ロンドンのマーガレット・パイク・センターのジョン・ギルボード博士は、以下を言っています。

わたしたちがピルは安全であると言うとき、それはピルに危険がないという意味ではありません。308

90年代のヨーロッパと英国で、ピルに起因する心血管問題の報告はひっきりなしでした。Lancet(1991)は息切れを訴えた19歳の少女が入院した例を発表しました。調査の結果、彼女には右側の共通腸骨静脈つまり再酸素転化のために足から心臓に血液を返す大静脈の障害がありました。309塞栓を解消する治療は5日かかりました。その後4週間にわたって抗凝固療法ががなされ、この患者は幸いにして回復しました。この報告を書いた研究者たちは、深部静脈血栓症の原因になった要因として、ピル使用の他には何も考えつくことができませんでした。

この女性が入院している間に実施された病理検査でもっとも興味深いのは、使用していたピルの成分であるシプロテロン(Diane R)に対する抗体が彼女に見られるようになったということです。この報告を書いた著者たちは「酢酸シプロテロンの抗体が深部静脈血栓症の原因になったかについて確証はないものの、この例はそれを強く示唆している」310と書いています。

他の研究者たちもピルの諸成分に対する抗体の存在について報告しています。ヴィオレットとジャン・ルイ・ボーモン(Lancet, 1991)は以下を述べています。

エストロゲン—プロゲステロン混合ピルを使用している女性の中に、放射免疫定量測定法によって測定された抗体は、普通の場合、エチニルエストラジオルに対するものです…(そして)それ以他には健康である経口避妊薬使用者の25%、血栓症のある使用者の80%に見られました。311

エチニルエストラジオルは、最近のピル処方に含まれるもっとも一般的成分です(補遺2を見よ)。

しかし、抗体とピルへの言及の意味は何なのでしょうか? 抗体とは「宿主を守るために抗原(異物)に反応する特殊化された血液細胞によって産出される特殊な物質」312です。この定義の中に、わたしはピル使用と関連する血栓塞栓症発症の増加を説明する第二の有望な仮説を見るのです。女性の体は諸人工ホルモンを異物として認識し、免疫系を利用してそれらを排除しようとするのです。免疫系と「異物である」薬品との間に起こる反応は、通常の凝固メカニズムに干渉するようになり、好ましくない、時として致死的結果をもたらします。わたしはこの仮説の方に、前者よりもさらに科学的正当性があるように思います。

血液系に対するピルの劇的影響をさらに強調するために、Lance(1994)に発表されたオランダのヴァンデンブルック教授が発表した論文について論評しましょう。

わたしたちは他の症状が見られないのに深部静脈血栓症のある、15〜49歳の一連の閉経前女性155人を、169人の対照グループと比較してみました。経口避妊薬使用者に見られた血栓症の危険率は4倍でした(300%の危険率上昇)。313

しかし、もっと重要なのは、ヴァンデンブルックが血中に欠陥のある凝固要因があった女性には、凝固障害がなくピルを使用しない女性の危険率と比較すると、血栓症になる危険率は30倍増加した、と報告したことでしょう。

この特殊な血液凝固の問題は要因Vライデン突然変異として知られ、それはオランダ女性の3.5%、スウェーデン女性の5%に起こります。この突然変異は「静脈血栓症にかかりやすくするプロテインC/プロテインS反凝固経路における遺伝的異常」です。314

この欠陥のある女性は活性プロテインCの反凝固効果に反応しません。その結果、彼女らの血液は「粘り気」があるようになり、比較的頻繁に凝固し、彼女らは血栓症にかかりやすくなります315(さらなる詳細は巻末の註を見よ)。316 この問題は女性がピルを使用していればさらに悪化します。著者たちは以下のように言います。

経口避妊薬非使用者でこの突然変異のない女性10,000人につき0.8%の血栓症発症は、この突然変異がある経口避妊薬使用者の場合10,000人につき28.5%に増加します…経口避妊薬を使用し始める若い女性には、もし彼女に要因Vライデン突然変異があるとすれば、静脈血栓症の危険率上昇があることは明白です。(強調は筆者による)317

スウェーデンとオランダ以他の国で女性の何パーセントにこの血液障害があるのか、そしてこの致死的であり得る障害があるかどうかを、ピルを処方する前に医師がどの程度調べるかが分かると興味深いことでしょう。

さらに、最近いくつかのできごとがあって、女性の健康状態をむしばむピルの能力は厳しい注目を浴びました。

1995年10月19日、英国薬事安全委員会は、これらのプロゲステロンは女性が非致死的血液凝固(血栓塞栓症)にかかる危険率を倍加することが知られているので、第三世代プロゲステロン(ゲストデンとデソゲストレル)含有のピル処方を変更するように、勧告しました。318,319

この発表に対するメディアの反応は素早いものでした。タイム誌(1995年10月21日)は以下の見出しで記事を掲載しました。

ピルに関する三つの論文が血液凝固の危険率上昇を示す。320

シドニー・サン・ヘラルド誌(1995年10月22日)には、以下の見出しが見られました。

ピルの恐怖 — 7ブランドに健康上の警告321 

このオーストラリアの見出しには、以下の小見出しが続きました。

低用量経口避妊ピルは、致死可能な血液凝固の原因になる危険率を倍加させる、という警告が世界中にパニックを引き起こしている。322

これら公的警告は、ゲストデンもしくはデソゲストレルを含有するFemoden R, Trioden R, Minulet R, Tri-Minulet R, Marvelon Rなどの最新版ピルに特に焦点を当てていました。

シドニーでも英国でも、心配して電話する女性たちを安心させるラジオ放送が何時間もあったので、明らかに、この報告を聞いて心配していた多くの女性たちが驚いたのも当然です。323

多くの人が気づかなかったかも知れない点は、報告された2倍の危険増が実は、現在使用されているピルの「第二世代」プロゲステロン処方に関連している既存の危険率が2倍になったということです。それはピル非使用女性にある危険率と比較しての2倍ではなかったのです。

この点はもっと強調される必要があります。危険率が計算される際の対照グループは、現在入手可能な、従来のピルを使用している女性たちだったのです。324このニュースが劇的であったのは、まさにこの事実があったからです。危険率の倍加は顕著であると言えます。しかし危険率の倍加が「古い」けれど、まだしばしば処方されている版のピルがもたらす危険率の倍加であるとき、これらの事実を公表するに当たっての遅延は許されません。325,326

英国薬事安全委員会の発表後一週間して、British Journal of Medicineの論説が第三世代諸プロゲストーゲンに関連して増加した危険率を数量化しました。British Journal of Medicineは、100,000人のその他ブランドの使用者当たり年間15例だけなのに比較して、最新型のピルによる心血管関連の危険率は、使用者100,000人当たり年間30例あると報告しました。327これらの数字は、危険率の「倍増」に重要な人間的次元を付け加え、わたしの考えでは、第三世代プロゲストーゲンに関する心配を正当化するものです。

ライデとベラル(Lancet, 1981)は、「古い」第二世代プロゲストーゲンが、女性が血栓塞栓症になる危険を3〜4倍増加したことをすでに証明していました。328ですから、タイムス誌とサン—ヘラルドの報告の意義は、新しい「安全な」ピル処方が、実際には3〜4倍という既存の危険率の倍加であることを人々に啓発した点にあります。このように、ゲストデンとデソゲストレルは女性の血液凝固の危険率を、ピル非使用女性の危険率と比較して、6〜8倍に増加させることが可能です。ある研究などはもっと高い数字を報告しています。ピル使用者は非使用者に比較して、11倍も血栓塞栓症にかかりやすいのです。329

  

興味深いことに、1995年11月、Lancetの投書欄にあったある手紙は、英国薬事安全委員会の決定を批判していました。ある投書は英国薬事安全委員会の決定を、「国民の健康を守るという点で安心させることのない」「秘密裏に」「大急ぎで」なされた決定であると非難しました。330別の投書によれば、第三世代プロゲステロンに関する論議が重要であったとしても、「…医師たちの立場に関するこの件の報道の結果から、さらに重要な含意が生じるかもしれません。」331

ワイスベルグ博士が言及したいわゆる「もっと安いピル」は、実は第二世代プロゲステロン処方です。それはより安全なタイプのプロゲストーゲンであることが判明しました。

ロンドン衛生・南方医学研究所のクリム・マクファーソン教授は、ワイスベルグ博士と異なる考え方を発表しました。 英国薬事安全委員会がその発表の基礎にしたデータを再検討した後、マクファーソン教授は「データが発表された今、薬事安全委員会が当然のことをしたのは明白なようである」と言いました。333マクファーソン教授の正当化は、薬事安全委員会があの発表をあの時期にしていなければ、そしてある人たちの主張に従ってあの結果を公表していなかったとすれば、334第三世代ピルを使用している英国女性の間に80例の静脈血栓塞栓症と「もしかすると一件の死亡例」があったであろう、という事実に基づくものでした。335

1955年12月16日、Lancetに掲載されたブレーメンキャンプと同僚による報告で、「第三世代」プロゲストーゲンピル処方が、「第二世代」の版よりも安全であるという触れ込みで誤って推進されたかも知れないという示唆はあからさまなものでした。この研究の著者たちは以下を述べています。

第三世代プロゲストーゲンを使用した混合経口避妊薬の安全に関して最近憂慮されているのは、一般人を対象にしたケース対照研究(ライデン血栓症研究)からのデータ検証を促しました。わたしたちは、第三世代プロゲストーゲンを含有する最新経口避妊薬使用中の深部静脈血栓症の危険率を、「もっと古い」製品の危険率と比較してみました…わたしたちは深部静脈血栓症のある126人の女性を、159人の15〜49歳(平均年齢34.9歳)の閉経前で非使用者の対照群と比較して、年齢を調節した最高の相対危険率は、デソゲストレルと3000マイクログラムのエチニルエストラジオルを含有する経口避妊薬のそれであることを発見しました(RR8.7,95% CI3.9-19.3)。336

これは第三世代プロゲステロンゲストデン使用者にとって、各年齢層を測定して得られた深部静脈血栓症の全般的危険増は、非使用者と比較すると770%であることを意味します。

それに比較して、第二世代プロゲステロンを服用している女性たちには、非使用者と比較して、深部静脈血栓症の危険増は120〜280%がありました。337明白に、これはゲストデン含有の製品と比較して危険が減少しています。

年齢別の観点からデータを検討したとき、第三世代製品を使用する若い女性には危険が比較的高いことが判明しました。

ほとんどの新しい使用者が集中する若年女性の分析に限ると、デソゲストレル含有の経口避妊薬の最高危険率は、レボノルゲストレル含有の製品のそれと比較して、7倍高いことが判明しました。20〜24歳の女性の場合、危険率は4倍でした。338

この場合、深部静脈血栓症の危険増推定は、第三と第二世代プロゲステロン使用の比較から得られたものであることに注意して下さい(レヴォノゲストレルが第二世代プロゲステロンであることを思い出して下さい)。この比較は、いかなる産児制限ホルモンも服用していない若年女性と比較して、第三世代プロゲステロンを服用している若年女性にとって深部静脈血栓症の危険増がどれほどあるのかという重大な質問に答えていません。それが第三世代を第二世代製品を比較した場合の7倍の危険増よりも、さらに大きいことは自明です。しかし、どれほどそれが大きいのでしょうか?

後者の比較的危険率の推定として、第二世代に比較して第三世代製品の危険率である7倍の120〜280%であるとするのは理に叶っているようです。この計算から、15〜19歳で第三世代プロゲストーゲンを服用していれば、どのような産児制限ホルモンも服用しない女性と比較して、15〜26倍の深部静脈血栓症の危険増があると推定されます。339

さらに劇的だったのは、第三世代プロゲストーゲンを使用しており、また要因Vライデン突然変異のある女性にとって、深部静脈血栓症の危険増が50倍であったという発見でした。340心配を要約して、著者たちは彼らの研究を以下の言葉で締めくくりました。

経口避妊薬の歴史を振り返るとき、エチニルエストラジオル(ピル中のエストロゲン成分)の量の減少は血栓症、特に動脈性の疾病に関する危険減少に役だったように見えるでしょう。しかし、第三世代プロゲストーゲン使用は、静脈血栓症のより高い危険率の思いがけない、かつ、未説明の復帰という問題を提示しているように見えます。341

1996年には、それ以他にもいくつかの報告が、一般的にピル使用、とりわけ第三世代プロゲストーゲン使用による、かなりの数になる心臓・血管の損傷があるという考えを支持しました。

1月13日、シュピッツァーと同僚たち(BMJ)は、第三世代プロゲストーゲンに起因する静脈血栓塞栓的障害の危険率に関する国際的に実施された研究を発表しました。主要な発見の中には、以下のものがありました。非使用と比較して、どのような経口避妊薬を使用していても、使用者にとっては深部静脈血栓症の危険率上昇が300%あります。第二世代製品(低用量エチニルエストラジオル使用、ゲストデンもしくはデソゲストレル不使用)対非使用の場合深部静脈血栓症の危険率上昇は220%でした。第三世代製品(低用量エチニルエストラジオルとゲストデンもしくはデソゲストレル使用)対第二世代製品の場合、深部静脈血栓症の危険率上昇は50%でした。342

これらの数字から以下が分かります。

(a)深部静脈血栓症の回避のために、避妊ピル非使用に勝るものはありません。

(b)ピルの第三世代の版には、第二世代製品より高い深部静脈血栓症の危険が伴います。

まとめて見ると、シュピッツァーと同僚たちは、以下を言っています。

第三世代製品を使用する女性の深部静脈血栓症による死の確率は、使用者100万人当たり年間約20人です。第二世代の製品を使用していれば、それは使用者100万人当たり年間約14人です。非使用者にとっては100万人当たり年間約5人です。343

シュピッツァーは、この危険増を「控えめ」ではあるが、それを「真剣に」受け止めて欲しいと言っています。

これらの統計をさらに意味ある文脈に置こうとして、研究者たちは第三世代プロゲストーゲン使用を第二世代製品使用と比較した場合、静脈系血栓塞栓症の危険増は「…女性がタバコを年間10本吸った場合の癌と心臓病による死の危険増」と同じであるとしました。344 

一見して、タバコを一年に10本吸う「同程度の」危険率と、第二世代でなく第三世代製品を使用することの間にある関係は、シュピッツァーが言ったように、第二世代と比較して第三世代プロゲストーゲン作用薬の実生活上の危険が「控えめ」であるように見えます。しかし、あなたが男性であるから、そして犠牲者の夫でないから、それが単に控えめな危険率であると考えるのではないでしょうか? というのがわたしの反論です。女性にとって、そして犠牲者の親戚にとって、100万人の女性につき年間20人にもなる「控えめ」な死は、決して小さな問題ではありません。

British Medical Journal(1996)の同じ版の中で、ルイスと同僚たちはオーストリア、フランス、ドイツ、スイス、英国にある16のセンターでなされた研究について報告しました。とりわけこの研究は、第三世代プロゲストーゲンと心筋梗塞として知られる心血管問題(心筋梗塞については用語解説を見よ)の間に関係があるかないかを調査しました。その結果、第二世代製品は非使用者と比較して、使用女性にとって心筋梗塞の危険率を211%増加したこと、第三世代製品は第二世代ピル使用者と比較してわずかながら心筋梗塞の危険率を減少したことが分かりました。345  

ルイスは自分の意外な発見を認めていますが、同時に「暫定的分析に基づくこの発見は十分気をつけて解釈すべきである」と付け加えています。346

1996年8月、ヴァンデンブルック(Lancet)は、第三世代プロゲストーゲンがもたらした心筋梗塞予防効果について、ルイスとは反対の結果を報告しました。ヴァンデンブルックは15〜49歳のオランダ人男女に関する死亡データを分析して、以下を発見しました。

わたしたちは15〜49歳のオランダ人男性の間に、1980年代初期からすでに始まり、進行中であった低死亡率があることに気づきます…女性の場合は当初、死亡率低下が見られましたが、それは後に上昇しています…喫煙率の変化が(喫煙が危険要因でない静脈血栓塞栓ではなく)、心筋梗塞の傾向を変化させたことも可能ですが、死亡データは全人口レベルで心筋梗塞に対する第三世代経口避妊薬の予防効果を示唆していません。347(強調は著者による)

上の引用に欠けている情報は死亡率に関連するデータですが、それはグラフ5で見て下さい。

グラフ5 15〜49歳オランダ人男女別の心筋梗塞による年齢別死亡率

 

この報告の作成者が、心筋梗塞による女性の死亡率増加が後に見られるこの減少を、説明します。

1980年代初期からオランダでは、デソゲストレル含有の避妊薬がすでに入手可能であったにもかかわらず、第三世代避妊薬の市場は、競争相手のゲストデン含有製品が導入された1980年代後期から拡大しつつあります。348

ヴァンデンブルックによるこの観察は、西ドイツ、イングランド、ウェールス、スイスで、第三世代プロゲストーゲンに関する問題点に関して注意を喚起していた前記の報告と一致しています。これらの製品群を導入していたもう一つの国での類似した問題の出現は、この薬品と心血管問題の因果関係を強く示唆するものです。

ヴァンデンブルックの研究(Lancet, 1996)は、静脈血栓塞栓による死亡率増加があったことも報告しました。1980年、女性の死亡率は100万人について年間5.2人でした。1984年、この数字は100万人について年間3.3人という最低点に達したにもかかわらず、1995年、100万人について年間7.5人に達する現時点に至るまで、確実な死亡率上昇が見られます。349

1996年、トマス(Lancet)によって発表されたさらにしっかりした研究が、本書の他の個所で取り扱ったテーマ、つまり人工ホルモンが若年女性に与える悪影響を強調しました。トマスは、1984〜86年の期間に15〜29歳の女性にとって静脈血栓塞栓症による死亡率は100万人について年間1.8人であったことを報告しました。1990〜92年を取ってみると、それは100万人について年間4.2人に増加していました。350これらの結果は前述のヴァンデンブルックのそれと一致しています。

トマス(Lancet, 1996)による同報告中の、静脈血栓塞栓症による30〜44歳の女性死亡率の変化も気になりました。1984〜92年には下降していたのが、その後上昇しています。これは、これら強力な薬品の熱狂的に推進する動機を真剣に再検討することを要請する一因です。これら二つの年齢グループに関するデータはグラフ6に示されています。

グラフ6351  静脈血栓塞栓症によるイングランドとウェールス女性の年齢別死亡率(1984〜92)

 

トマスは第三世代プロゲストーゲンの影響と心筋梗塞について報告しましたが、結論は、確実な観察をするにはデータと所見が不十分である、というものでした。

もしデソゲストレルとゲストデン含有製剤が、心筋梗塞の危険を減少させることが確認されていたら、それらの使用がこの年齢グループの全体死亡率を低くするのかも知れません。しかし現在のところ、これを裏付ける十分な証拠はありません。352(強調は著者による)

トマスは、出産可能時期の女性における心筋梗塞と静脈血栓塞栓症による死亡が、極めてまれであること、また、他の要因の中でも死亡原因を正確に診断する際の人間に起因する誤謬があるために「これらのデータには、新薬が死亡率にもたらす影響を研究するには不十分な価値しかない」353ことに注意を喚起しつつも、若年女性が「死亡」統計として際だって引き合いに出されているように見える理由を提示しました。

静脈血栓塞栓症による若年女性の死亡率増加は心配の種です。これらのデータは因果関係を証明するものではありませんが、観察された死亡につながる血栓塞栓症の増加は、疫学的研究で見られた、デソゲストレルもしくはゲストデン含有製剤に関連する、死亡につながらない血栓塞栓症の増加率と一致しています。若年女性における死亡率の比較的大きな増加は、彼女たちが経口避妊薬をもっとも多く使用し、従って、より新しい製剤をもっとも大量に使用したことが考えられるので、当然と思われます。354(強調は著者による)

トマスの報告(Lancet, 1996)のすぐ後で、ピル使用と静脈血栓塞栓症の因果関係の証明と説明が、ローシングと同僚たちによってBritish Journal of Haematology(1997年4月)誌上に発表されました。この研究で提示された証拠は、ピルと血液凝固を結ぶ3つの仮説の中でもっとも説得力あるものにします。

研究を実施するに当たって、研究者たちは、男女からなる種々の患者たちの血液標本を集めました。その内訳は、ピル非使用の健康な女性40人と男性50人、三相ピルを使用した女性24人、単相の第二世代ピルを使用した女性32人、第三世代ピル(ゲストデン、デソゲストレル、ノルゲスチメイト)を使用した女性40人、要因V ライデン突然変異のある女性17人です。異なる血液標本が凝固を形成する能力を測定する検査が実施されました。

この研究の価値を理解するために、要因V、活性タンパクC、トロンビンの相互作用的役割を思い出すと良いでしょう。簡単に言えば「要因Vは正常の血漿の中に見られる血液凝固要因です…それは、プロトロンビンを急速にトロンビンに変化させるために必要です。」355トロンビンはフィブリノーゲンを凝固形成に必要なフィブリンに変える原因になります。356お分かりのように、血液凝固系の種々の成分の間には「ドミノ」に似た相互作用があるのです。当然、致死的ではないとしても、油断ならない、容赦ない凝固形成過程が起こらないように、血液凝固過程を中和するためには、何らかの物質が必要です。

血液系の中にあるこのような成分の一つは活性タンパクCとトロンビンです。要因Vを不活性化するのは活性タンパクCの役割です。活性タンパクCはトロンビン形成を止め、究極的には凝固形成を防止します。遺伝的突然変異によって、ある人たちの要因Vには欠陥があります。これは要因Vライデン突然変異として知られています。この突然変異が意味するのは、血液凝固要因Vが、活性タンパクCによってすぐには中和されないということです。357このような人々は活性タンパクC耐性であると言われます。要因Vのこの遺伝的欠損が、ピルを使用しない「活性タンパクC耐性の個人における静脈血栓塞栓症の危険率上昇をおそらく説明します。」358

ローシングの研究(British Journal of Haematology)は、要因Vに既存の遺伝的欠陥がない女性でさえも活性タンパクC耐性になったことを示した意味で、驚異的でした。つまり、これらの女性は遺伝的に正常に機能する凝固/反凝固系があるのに、ピル使用がこのシステムを弱め、その結果、凝固への顕著な移行を見せたということです。欠陥はピル服用による後天的なものでした。それは遺伝的欠陥ではなかったのです。

この研究では、考えられていたよりはるかに敏感であるように見える、経口避妊薬を使用する女性における血液定位変数(血液の流れを変更する変数)の顕著な変化を、わたしたちは報告します。これは経口避妊薬使用者におけるプロトロンビン(凝固亢進)状態の存在を示すものかも知れません…経口避妊薬使用者と非使用者を調査することによって、経口避妊薬治療が活性タンパクC耐性を獲得させることが示されます。経口避妊薬非使用女性と、経口避妊薬のタイプに関係なく経口避妊薬治療をする女性の間には、活性タンパクCに対する感受性の顕著な差異が観察されました…わたしたちは、経口避妊薬使用者の活性タンパクCに対する感受性減少(獲得された活性タンパクC耐性)は、少なくとも部分的には、経口避妊薬使用者における血栓塞栓症にまつわる疾病の危険増を説明するのではないだろうか、と発議します…今まで、経口避妊薬治療中の静脈血栓塞栓症の危険増は、常に凝固系に対するエストロゲンの影響と関連づけられてきました。わたしたちの研究は、血液定位に対するプロゲステロン成分の生物学的影響の最初の例を提供し、静脈血栓症の危険率に関して、プロゲステロンの果たす役割が無視されてならないことを示すものです。359(強調は著者による)

ローシンと同僚たちは、ピル使用女性が活性タンパクC耐性を獲得できることを証明した後、なぜこれらの事実が、これからのピル使用者に直ちに知らされなければならないかという理由を提示しました。経口避妊薬治療が血液凝固反応に与える影響は、「経口避妊薬治療を始めてから数日内に起きます…」360この急速な血液凝固メカニズムへの急速な干渉の悲劇的諸結果は、本章の終わりにある事例研究で述べることにしましょう。また、この発見には「morning-after」ピルとして使用するためのピル推進にとって、重要な含みがあります。

ローシングが、「(血液凝固形成における)プロゲステロンが果たす役割を無視できない」ことをはっきりさせたのは興味深いと言えます。なぜかと言えば、J.P.ヴァンデンブルックスの手紙(Lancet, 1997)によれば、これこそ1995年10月18日と1997年4月の英国薬事安全委員会の決定の間に起こったように見えるからです。ヴァンデンブルックスの考え方は、Lancetのような雑誌に普通見られるような書き方とかけ離れています。「投書欄」に見られる標準的書き方は、弁解じみた調子の、尊敬に満ちた、訂正もしくは穏やかな反対です。ヴァンデンブルックスがそのようなスタイルから逸脱しているのは、少なくともわたしの目には、露わな怒りです。彼の鋭い、露わな批判は正当化され得るのでしょうか? 答は以下の引用で明らかになります。

1年以上も、いくつかの第三世代経口避妊薬に関する危険増を指摘する疫学的所見は無視されるか、過小評価(「小さな影響」)されるか、または否定(「偏見、混同」)されるかでした。第三世代効果が単なる「初心者」と「健康な使用者」に過ぎなかったという反対は、使用開始者か極最近使用し始めた女性だけに限られたいくつかのデータ分析によって完全に否定されました。処方による偏向は、健康な若年女性における初回の静脈血栓塞栓症を予見できる、すべての危険要因が考慮された事実によって修正されています。それにもかかわらず、「専門家」は、危険を示す資料よりも不適当なデータと分析でもって、しかし、大抵の場合、議論の単なる蒸し返しによって、考えられる限りの混乱を撒き散らし続けました。疫学の歴史で、生物学的説明が議論の最中に登場して、疫学的もみがらを小麦からふるい分けるなどということは珍しいのです。361

1995年10月の薬事安全委員会決定を覆そうとした人々に狙いを定めた、この批判の他に、ヴァンデンブルックスは、医学的データの仲間内だけの論評という現在のシステムの再検討を強く求めました。

(ローシングによる)この発見の最大の受益者は女性でしょう。疫学に相応しい原因探求的説明の期待に関して、薬品規制部局はもう決定を先送りすることはできません。明確な処方箋ガイドラインが論議されるべきです。362…その間、損をしたのは、特に、ゲストデンまたはデソゲストレル含有の第三世代避妊薬に関する、1995年10月18日の英国薬事安全委員会による警告が、全ヨーロッパ諸国で類似の規制措置にならなかったので、血栓症の原因に非常になりやすいピルを使用して重い静脈血栓症にかかった女性たち、ということになります。特に、医薬品評価ヨーロッパ部局は、完全な疫学的ファイルが目の前にあるというのに「さらなる証拠」を要求して、あまりにも熱心に決定を延期し過ぎました。将来は、独立した消費者側の委員会とか患者の発言の場がもっと関わり合うことが選択肢となることも考えると良いかも知れません。このような委員会であれば、安全に関して、圧力をもっとよく跳ね返して、それ以他の考慮から自由な決定を下すことができるのかも知れません。363

この考え方には大きな価値があります。ブレーメンカンプ、ヴァンデンブルックス、トマス、ローシングのこれらの研究に見られる不運な一致は、若年女性に第三世代プロゲストーゲンを販売する意図的戦略があったとすれば、種々の心血管問題の発症増加数からして、その戦略が成功したことを示唆します。

しかし、これは心血管系もしくは特定の年齢グループの女性にとって、第三世代プロゲストーゲンの悪影響のすべてではありません。プルテルによる二つの報告(Lancet,1996)は、35歳以上の女性がピルを使用すれば、その年齢層の使用者には出血性発作の危険増が100%であり、364調査時にピルを使用していた20〜44歳の年齢グループには虚血性発作の危険率上昇が199%でした365

4.1.1 事例研究

この章の始めに、わたしは、100万人の女性につき年間20人にもなる「控えめの」死亡率は、小さな問題ではないことを示唆しました。以下に挙げる3事例は、ピルに誘発された心血管疾病がもたらした人間的苦悩を明らかにします。

英国に住む十代の少女キャロリン・ベイコンにとって、1995年10月の英国薬事安全委員会による決定は、残念ながら遅すぎました。16歳の彼女は1994年5月に発作を起こして死亡しました。366,367家族計画協会の医師が彼女にフェモデンRを処方したとき、彼女はまだ14歳でした。フェモデンRを服用し始めてから6カ月以内に、キャロリンは「頭痛、右半身と右腕の麻痺が始まり、閃光が見えるようになりました。」368何日か昏睡状態が続いた後、キャロリンは意識を回復しましたが、眼を動かすことしかできませんでした。彼女は死ぬまで11カ月間もその状態に留まりました。母親によると「うちの娘には循環系の問題があり、ピルがそれを悪化させました。」369

英国からのニュースによれば、特定のピル使用による死亡は上記の例だけではありません。UK News(1997年5月2日、621号)によると、クリスティーナ・ロバーツは顔、腕、背中にできた軽いニキビを治療するためにDianette TMを投薬された結果、何度かの心臓発作を経て死亡しました。370Dianetteにはエチニルエストラジオルとチプロテロンが含有されていることを思い出して下さい。これらの薬品については、以前に心血管合併症に関係するということで、Lancetの記事が触れています。

カナダでは、発作の犠牲者、19歳のジュディー・モゼルスキーは、看護婦に瞬きでしか意志疎通ができません。看護婦が彼女の暗号を解読して、裁判官にメッセージを伝えます。ジュディーは、自分にピルを処方した医師を告訴しているのです。371このケースの結末には多くの派生効果があることでしょう。

4.1.2 結論 

以上の医学文献を後ろ盾にして、またTriodene R, Femoden R, Marvelon R, Minulet R, Tri-Minulet R等によって発せられた最近の警告に促されて、タイム誌の以下の記事を引用するのがふさわしいと判断します。

…政府は、科学的実験計画案よりも国民の安全を優先させることにしました。大方の女性たちと家族のメンバーは、おそらくこの措置に賛意を表するはずです。372

キャロリン、クリティーナ、ジュディーのような女性たちのためにわたしは本書を書いています。

4.2 ピルと奇形児の出生

もう一つ非常に気になる分野は、ピルには発育中の赤ちゃんを奇形にする作用が秘められている点です。米国からの報告は、妊娠中にピルを服用した場合に起こり得る損害について伝えています。この報告は、ピルを医師の処方不要の売薬にしようとするいかなる動きにも著しく関わってきます。

キム博士は、男児なのに女性の性器を備えて生まれてきた赤ちゃんについて報告しています。この赤ちゃんは屈肢症でもありました。屈肢症の特徴は四肢の湾曲、四肢が短くなること、胸郭の湾曲、短い首、喉頭と気管の軟化です。この最後の合併症が生後3カ月半の赤ちゃんの死因になりました。

母親の罹患歴によると、彼女は21歳で健康であり、麻薬、感染性の病原体、放射線とは無関係。唯一の重要な特徴は、彼女が妊娠直前まで18カ月間、妊娠してからも6カ月間Ortho-Novum R(ノルエチンドロンを0.5mg-1mg、エチニルエストラジオルを0.035mg含有)を服用していたという点です。373

この研究の著者は、妊娠初期にピルに接触した赤ちゃんが、性転換と屈肢症の被害者になった2番目の例であったことを挙げています。この報告は、ピルホルモンの強力な性質を明るみに出してくれました。それは、オーストラリア政府によるピルの現行の位置づけを再評価する必要のあることも示唆します。現在のところ、ピルは「B3」薬品(補遺を見よ)として位置づけられています。以上の研究からして、ピルは、アメリカでのピルの分類「X」(補遺5を見よ)に相当するD類として分類される方がふさわしいかも知れません。

米国の食品医薬品局が、以前から「…経口避妊薬使用を中止した直後に妊娠した女性の胎児の催奇形性についての警告」を発しているのは、興味深いことです。374

この点について、ラーワン教務は以下のように書いています。

ピル使用中止した次の月に開始する妊娠において、染色体異常の頻度が比較的高くなる証拠が判明しているので、患者は、受胎の約3カ月前から経口避妊薬の服用を中止することの重要性を知らされるべきです。375

また、彼は、経胎盤性の催奇形性(諸ホルモンが胎盤を経由して赤ちゃんに侵入するために起こる出生時奇形)に関する問題について警告しています。彼は、諸プロゲステロンと出生時の奇形と明らかに関わりがあると考えています。

…妊娠初期に使用されたプロゲステロンは、胎児に起こる四肢の奇形の通常危険率を5倍増加させることを、最近の諸研究は示唆します…誕生前に性ステロイド(特に諸プロゲステロン)を浴びた子供の間に、比較的高い頻度で(> 10%)心血管の奇形も報告されています…一般と比較すると、女性性ステロイドを出生前に浴びた子供の場合、重い奇形の総合的発生率は26%、軽い奇形であれば33%増加します。376

医学文献に記録された出生時奇形のリストは、それ以他の多くの問題につながっています。以下のリストは、英国とオーストラリアの薬剤師用の主な教科書であるMartindale-The Extra Pharmacopoeaから引用されたものです。

妊娠と新生児 胎児への諸影響

1980年代初期、全妊婦にプロゲストーゲンによるホルモン補給治療が実施されていたハンガリーでの事例対照研究は、この治療と子供たちの間に見られた尿道下裂の間に因果関係のあることを示唆しました。(1)体内で諸プロゲストーゲンを浴びた子供たちの間に見られる異常の報告は、ノルエチステロンとヒドロキシプロゲステロンの場合は尿道下裂(2)ジドロゲステロンと(3)ヒドロキシプロゲステロンの場合はその他の性尿器奇形(4)とファロー四徴(5)副腎皮質癌(6)ヒドロキシプロゲステロンの場合は(7)ノルエチンドロン、ノルエチノドレル、エチステロンの場合は胎児の男性化(8)ノルエチンドロンとエチステロンの場合は髄膜脊髄瘤、水頭症(9)ノルエチンドロンの場合は新生児舞踏アテトーゼ症を含んでいます。377        

製薬会社は、ある薬品に出生時奇形(催奇形性)の原因があると、だれかが間違って主張することがあったとして法廷闘争に持ち込む際には、慎重であって欲しいものです。上述性ホルモンの体内曝露の問題は、世界的に「性交後避妊薬」を処方なしで店頭で販売できるようにしようとする現在の世界的運動を考慮するとき、法的には顕著な含みを持つものです。

4.3 ピルと不妊

受胎能力は、たとえ害されても、時間が経過すれば癒えるものですが、「経産婦でない場合、ピル使用を止めた後30カ月は妊娠できない可能性があります。」378ある女性群にとって受胎能力の復活にはもっと時間がかかります。

25〜29歳の未産婦の場合、受胎能力の損傷は比較的に大きかったのですが、その影響は48カ月経つと完全に消えてしまいました。30〜34歳の未産婦のグループの場合、損傷はもっと大きかったのですが、これは永久的ではありませんでした。なぜなら、その中の何人かの未産婦は、経口避妊薬の使用中止から72カ月(6年)後に、ホルモンによらない避妊法を以前使用していたグループと同じになりました。379

当然、わたしたちは、なぜこのようにかなりの期間が必要なのか知りたくなります。

この質問に対するいくつかの答は、スウェーデンのウメア大学医学生物物理学部のエリック・オーデブラッド博士が発見しています。博士は、30年以上も受胎能力へのピルの影響を研究しています。博士は、異なるタイプの子宮頸管粘液へのホルモンの干渉を特に重視しています。オーデブラッド博士が、女性受胎能力のこの分野での研究で、最先端を行っていると言っても間違いではないでしょう。380

まず、粘度の高いG粘液があります。これは周期のほとんどの期間、と言っても、もちろん月経時と排卵時を除いて、子宮頸管に栓をします。精子はG粘液を通過してさかのぼることができません。ですから、この種の粘液は、自然に存在する障壁避妊法として作用します。

第二のタイプはL粘液と呼ばれ、弱い精子を通過させないために一役買います。

最後に、水っぽいS粘液があり、これは膣から子宮頸管に精子が移動するのを大いに助け、受胎が起こる可能性を与えます。女性の受胎能力への損傷はS粘液と関係しています。

避妊ピル使用の後、S粘液を分泌する陰窩(頸管内壁のひだ)が衰退して不活発になります。ピル使用の中止も、ある女性たちのS粘液分泌を復活させて、S粘液を最良の質にまで復帰させるのを困難にします。このような女性には排卵があっても、彼女らのS粘液が受胎にとって最良の状態にならないので、受胎する確率が低くなります。(強調は筆者による)381

このようにして、ピル使用中止後の排卵の復活は、女性の受胎能力の復活を意味するものではありません。女性の体は、再度、質と量の面で正常なS粘液の分泌を始めなければなりません。S粘液分泌線に残存する損傷が、受胎能力の真の尺度である受精に必要な鎖の中での弱いリンクなのです。

通常の受胎能力への復帰が難しいのは、もう一つ要因があるためです。ピルはG粘液を強力に刺激しますから、それがピル使用後もしばらくは続くのかも知れません。382G粘液は精子の動き、ひいては受胎を妨げることを思い出して下さい。

排卵への長期的影響ではなく、粘液分泌に対するピルのこれら二つの相互に関連した作用が、ピル服用以前の受胎能力への復帰を遅らせる理由です。

これらの発見に従って言えるのは、女性の健康状態に対するピルの影響からして、それが悪薬であるということです。「汝傷つけることなかれ」という古来から伝わった医学の掟があります。健康な女性に不健康になる危険を冒し、また時としては死ぬようにさえ勧めるのはとんでもないことです。

4.4 要点

1.ゲストデンとかデソゲストレルのような第三世代プロゲストーゲンの使用が、深部静脈血栓症と心筋梗塞の危険率上昇に関連していることは、議論の余地がないほど証明されています。

2.若年女性は、たとえ排他的にではないとしても、もっとも危険にさらされています。

3.獲得された活性化タンパクC耐性、ひいては血液凝固の原因になる諸プロゲステロンの故に、それらを「性交後」避妊薬として売り込むことは、医学的にも、法律的にも大きな問題があります。

4.ピルは、出生時障害をいろいろ引き起こします。「性交後」避妊薬としてのピルを簡単に入手できるような運動には、法的にも問題があり得ることも、それは示唆します。

5.ピルには長期にわたって女性の受胎能力に損傷を与えることが判明しています。

補遺

12.1 補遺1 プロゲステロン単剤ピルの妊娠中絶促進作用

医学文献は、プロゲステロン単剤ピルであるMicronor Rを使用すると、「平均して年間100人の女性につき2.54回の割合で妊娠」があることを報じました。明らかに、年間100人の女性につき2.54回の割合での妊娠と、E・ワイスベルグ博士が示唆した10人のうち4人(40%)の排卵率の間には食い違いがあります。この食い違いは、ミニピルには妊娠中絶促進作用があるという考えを支持するものです。

18. 著者紹介

ジョン・ウイルクス氏は15年以上も薬剤師として働いており、10年ほど前から自分の薬局も所有しています。その間、彼は顧客カウンセリングと薬品の正しい管理に強い興味を持つようになりました。彼は、シドニー西部地区薬品情報サーヴィスの責任者であり、薬剤師として、顧客カウンセリングに薬品情報CD、Micromedex利用のパイオニアの一人でした。

彼は、シドニー大学で大学院在籍の薬剤師のために講師を勤めています。オーストラリア製薬業界保健/薬剤師助言グループの責任者でもあり、顧客カウンセリングに興味を持つ仲間の薬剤師たちの相談にも応じています。また、シドニー大学と製薬会社が関係する種々の企画の研究・調査に関わってきました。

彼は、薬品の正しい使用、薬品に関連する健康上の問題に関してテレビ、ラジオ、新聞等でも発言しています。

1997年9月


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