二章

ピルと子宮頸癌

「ピルが安全であるということは、ピルに危険がないという意味ではありません。」

ギルボー教授(1995)84

2.1 初期の相反するデータ

ピルには子宮頸癌との関係があるかどうかの問題は、30年以上も前から医学研究者によって盛んに調査されています。初期の研究は、ピル販売が始まってから間もない1964年頃になされています。しかしピルと健康の関連性を解明する代わりに、これら初期のデータは相反するデータを出しました。

初期の医学文献を調べた人たちは、タイラー(1964)、ピンカス(1965)、ウィード(1966)、ミラー(1973)85、ワースとボイス(1972)、86トマス(1972)、メラメッドとフレッヒンガー(1973)87ルー(1977)、88などの多くの研究者は、この疾病とピルの間に何らの繋がりも見ませんでした。

これらの所見にもかかわらず、ほぼ同時期になされたアットウッド(1966)、リウ(1967)、クライン(1970)とドーハティー(1970)による四つの研究論文は、非使用者と比較してピル使用者にはほぼ2倍の子宮頸癌があることを報告しました。89

決定的結果が欠如していたために、トマス(1972)など何人かの研究者は以下を提唱しています。「子宮頸癌腫の長期にわたる潜伏期のために早まった結論に達する恐れがありますから、研究は今後も続けられるべきです。」90

この用心深いやり方は、1977年オリ91が子宮頸癌854例と上皮内癌147例を報告したときに報われたと言えましょう。8553人の調査対象で、これら2疾病が発症する高い危険性は、それぞれ60%(PR1.6)と370%(RR4.7)でした。

これらの結果は、その規模の大きさにもかかわらず、ピルの「真の」危険を誤って伝えていると批判されています。反対する人たちは、結果に関係したかも知れない他の要因をそれらの研究者たちが考慮していなかったという理由で、批判しています。例えば、患者の年齢、人種、社会経済的階級、性的パートナーの数、最初の性交経験年齢、性器官の感染症の有無、パパニコロー染色検査、初経年齢、生殖行動、喫煙、結婚の有無などがこの統計的分析の中で「計算外」であった、と彼らは言うのです。

1977年、今度はペリッツ92と同僚によるもう一つの研究が発表されました。それは4年間のピル使用の場合、危険が410%増加するというものでしたが、これもその他の研究者たちからは、研究対象者の性的行動の影響を考慮に入れていないという理由で、批判されました。93この研究では、著者自身さえもいくつかの方法論的欠陥があるとしており、いくつかの推定には「見本抽出にあたってかなりの誤差があるので、注意が必要である」とは言っています。94

これら初期の研究によるピルの最悪の罪状と言えば、健康に良いか悪いかは未確認であるということぐらいでしょう。明白な結果はありませんでしたから、確実な結論も得られませんでした。科学は想像とか推定でなく、証明可能な事実に基づくものですから、この点でピルに汚点のない通知票を与えたのは理に叶っていました。

2.2 80年代の新しい重要データ

80年代初期、明白な結論を持つ重要な研究が何編か出版されました。これらの研究は、ピルの安全性に新しく、批判的な光を当てるためにもっと引用されるべきでした。意味深いことに、これらの研究は、あと知恵と言われるきらいはあるものの、確かであるより軽率であるという非難の犠牲であったかも知れない、上記の研究にいくらかの信頼性をもたらしました。

重要な研究の中の一つ(ヴェッシー1983)は、現在ピルを使用している6838人の経産婦を、避妊リングを使用している3154人の経産婦と比較しました。以下がその報告です。

(子宮頸管腫瘍形成の)全体的発症は避妊リンググループと比較して、ピルグループでは75%高いことが分かりました…(絶対的結論と言えないまでも)著者にとって、子宮頸部浸潤性癌に関するこの所見は気になります。95

ヴェッシーの研究は、不穏な人口学的傾向にも焦点を当てました。

…子宮頸癌による死亡率と子宮頸部浸潤癌と上皮内癌の発症率は、イングランドとウェールズの34歳までの女性の場合、過去十年、確実に上昇していました。96(子宮頸癌の発達については補遺3を見よ)。

ヴェッシーが注目したこの死亡率増が、例えばオリ(1977)とペリッツ(1977)などによる初期の子宮頸癌に関する報告が出版され、厳しい批判を浴びたのと同じ時期以降のものであるのは興味深いことです。

ヴェッシー博士は、ピルと子宮頸癌の関係を発見できなかったトマス、ワース、ボイス、その他の研究者たちによる初期のピル研究に関連して、以下を述べています。

(初期の)否定的研究の対象には、経口避妊薬の長期使用者数が少なかったのです。ピル使用と子宮頸管腫瘍の危険性は、もしそのデータが48カ月(または72カ月)の経口避妊薬使用に限られていれば、判明しなかったはずです。97

ここで、ヴェッシー博士は薬品誘発性の癌発見までには、かなりの期間が経過しなければならないと言っています。これは潜伏期として知られるもので、次の章で詳しく書きましょう。さしあたって、この用語の研究上での意義と「データは、長期にわたる避妊剤使用が、子宮頸管腫瘍の危険を増加させるかも知れないことを支持している」98というヴェッシー博士の発言によって照明を当てられた、女性の健康との関係について知るだけで良いでしょう。

5年ほど後に、ヴァレリ・ベラルとフィリップ・ハンナフォード(Lancet, 1988)が、ピルと子宮頸癌の関係に関して、もっとも包括的研究の一つとされる研究を発表しました。彼らは47,000人の女性の診療歴を調査し、「経口避妊薬使用者(常時使用者)には非使用者と比較して明らかに子宮頸癌の発症率が高い」と結論しました。99

10年以上使用した場合、発症率は非使用者と比較して4倍も高くなります」100(300%の増加)。

ヴァレリ・ベラルが、ピルに関する中心的疑問を包み隠すことなく発表しているのは興味深いことです。

経口避妊薬と性器癌の間には因果関係があるのでしょうか? それともその他に原因があってその関係は、副次的なものに過ぎないのでしょうか? これまでは経口避妊薬使用者に見られる子宮頸癌の発症率の高さは、ホルモン剤の直接的結果ではなく、経口避妊薬使用者と非使用者の間に見られる異なる諸性習慣に次いで副次的である、と主張され続けてきました…しかし、本研究とその他の研究で、経口避妊薬使用との関係は、その他の知られている諸危険要因を除外した後も存在し続けます。101

この引用の最後の文章は、研究の観点から見ると新境地を開くものです。ベラルとハンナフォードは、年齢、出産の有無、喫煙、社会階級、以前に通常見られた膣内容塗布の数値、性病の既往症などの統計的交絡要因を考慮に入れても、彼らが発見したかなりの数の癌の残存リスクは、100%ピルによるものであると述べました。彼らは、この薬品と癌の間に「直接的結果」があったと確信していました。

2.3 ピルは癌発症の原因だろうか? それとも促進するだけなのか?

ホルモン剤(ピル)の「直接的結果」は、既存の子宮頸癌を刺激するのだろうか、それともピルの「直接的結果」は健康な子宮頸管組織を刺激して、それが変貌を遂げて癌細胞になるのだろうかという疑問が生じます。ピルは、前者であれば「推進因子」、後者であれば「原因因子」であるということになります。研究が進んだ時点で説明しますが、これは重要な点です。今のところ、その研究を見守るだけで十分でしょう。

ベラルの後すぐ、シュレッセルマン(1988)が、135もの科学論文に見られる所見について論評を出版しました。彼は以下を述べています。

子宮頸部異形成と上皮内癌の諸研究は、2年またはそれ以上の経口避妊薬使用があると危険率が高まることを示しています。」さらに次を報告します。「10年の使用は2倍近く危険率を高めていることを示す証拠があります。102(100%の増加)。

同年、シドニーでブロックと同僚によって、一定地域に住む子宮頸管上皮内癌のある女性たちのケースコントロール対照研究が行われ、The Medical Journal of Australiaに発表されました。それによると、癌の危険率は130%の増加を示しました。

避妊剤の長期使用は危険率上昇と関係がありました(6年以上の使用の場合、比較的危険率は2.3になります)。103

この研究は、ベラルとほぼ同様な結果になっていないにもかかわらず、その指し示す方向は同一です。社会学的に興味深いのは、この研究が解明したその他多くの事柄です。

例えば、乱交は子宮頸癌の主要要因であることが分かりました。

生涯に7人またはそれ以上の性的パートナーのいる女性は、一人のパートナーまたはパートナーのいない女性と比較して、6倍(500%)の危険率があります。初回の性交が若年時の場合も危険要因です…104

この後者の場合は、もし性交が16歳未満でなされたときは、子宮頸癌が2倍増加する事実と関係がありました。

この研究は肯定的な面も報告しています。

リズム法による産児制限をした、または(7カ月以上にわたって)母乳養育をした…女性たちには、予防効果が見られました。105

また興味深いのは、ピルが正常の子宮頸管組織の発育を、癌細胞発育に変性してしまうのではないかと主張されているメカニズムです。

経口避妊ピル使用が、子宮頸癌発育の危険率を変えるかも知れないそのメカニズムはまだ分かっていません。それでも子宮頸管組織にはホルモンのレセプターがあって、ホルモン投与が子宮頸管に組織学的変化をもたらすのではないか、と思われる証拠は存在するのです。106

レセプターは、ホルモンが付着した結果、細胞反応を引き起こす原因となる特殊な細胞蛋白です。107細胞のレセプターのある場所は、車のイグニッションキーの鍵穴にたとえられます。車の鍵が差し込まれて回されると、車のエンジンはスタートします。薬品が誘発する作用と疾病の全体的把握のために、薬品にレセプターが反応するというこの概念は重要です。そのためにわたしはわざと寄り道をしました。今から研究の本体に話を戻します。

ますますの圧力も加わって、1990年、子宮頸癌とピルの関係をさらに証拠づける材料が現れ始めました。ブリントンとリーヴズはInternational Journal of Epidemologyに投稿して、5年またはそれ以上の期間ピルを使用する女性にとって、子宮頸癌の危険率はほぼ倍増すると報告しました。108(RR1.7,95 %, CI 1.1-2.6)

1991年、この研究を支持する調査もグラナダ大学から発表されました。それはピルと子宮頸癌について発表されている既存の研究論文53編の論評でした。この報告の著者は「子宮頸癌には経口避妊薬とかなりの関係と相対的危険率があった」109と結論づけています。

1991年、その次に重要な報告は、長年の経験を積んだ主要な国際的研究者ルイーズ・ブリントンによるものでした。彼女の観察も、ピルと子宮頸癌の間に関係がないとした、以前の短期間の研究の不適切さに関するヴェッシー(1983)のものと類似していました。

経口避妊薬と子宮頸管腫瘍の関係を調査した以前の研究は、わたしたちを安心させた(危険率がない)ようですが、最近の研究は、特にそれが長期にわたる使用者に関して関係があるとみるようになりました。110

研究論文というものがややもすると保守的であることを考慮すると、これは一陣の涼風のように正直な発言です。これは、ピルは安全であるとしてしつこく売り込まれた、そして今日に至るまで信じ込まれている見方の真剣な疑問視に道を開きました。ブリントンはさらに「いくつかの厳重な対照グループで、5年またはそれ以上の使用者には、ほぼ2倍の残差超過危険率(交絡要素を考慮した後の真の危険率)があること」を指摘しました。(編者の強調)111

それだけではありません。ブリントンは、ピルに子宮頸癌を助長する作用がある可能性もあると言っています。彼女は「経口避妊剤の助長作用が、最近の使用と関連するより高い危険率によって触発される可能性があります」と報告しました。112ブリントン博士は子宮頸癌発症に果たすピルの役割には、かなりの生物学的可能性があることを指摘しました。

動物においてホルモンステロイドには、子宮頸癌の発育を促進する能力があります。人間において、子宮頸部組織にはホルモンレセプターが存在する場所があることが発見されています。そして前述したように、子宮頸管の上皮(表面を覆う組織)における組織学的(微細組織)変化は、避妊ステロイドの投与に起因することが証明されています。113

ピルが子宮頸癌を助長するというブリントンの考え方は、ピルが子宮頸癌を起こすと主張したベラルとハンナフォード(1988)と異なっていました。これら二つの考え方には科学的違いと、後ほど言及する言他の意味がありました。今は、ピルの発癌性を証言する医学文献の論評を続けましょう。

1.4 子宮頸癌と若年者のピル使用

American Journal of Obstetrics and Gynecologyにインガー・グラムと同僚たち(1992)が発表した研究は、その目的に合っています。これらの研究者たちは、10年間にわたってピルを使用した6,622人のノルウェー人女性を巻き込んだ研究の結果を発表しました。彼らは年齢、喫煙、配偶者の有無、アルコール消費の有無など結果に影響を与えたかも知れない要因を考慮した後でも、ピル非使用者と比較してピル使用者の子宮頸癌にかかる危険率が50%高いことを突き止めました。114(RR1.5,95%CI 1.0-1.8)

以下はグラムと同僚たちのコメントです。

この追跡調査の結果は、現在と過去の経口避妊剤使用者が、避妊剤を一度も使用したことのない女性と比較して、より高い率で子宮頸管上皮内腫瘍(CIN)にかかることを示します。この発見は経口避妊薬—子宮頸管上皮内腫瘍の仮説を以前評価した5チームの研究の中、4チームが出した結論と類似しています。115

今でもある反対意見にもかかわらず、これらの研究者たちは確信をもって「これらの発見は、経口避妊剤の使用によって子宮頸管上皮内腫瘍の発症が増える、という仮説を支持する」と述べています。116(CINについては補遺を見よ)。

この報告が、若年時からピル使用を始めた女性たちに付きまとう危険について注意を喚起したことには、意味があります。

若年時からピル使用を開始した女性たちには、成長後ピル使用を開始した女性たちよりも高い危険率があります。117

ピルの研究においては、ピルの初回使用年齢を考慮することが肝要です。乳癌に関する次章は、この問題にかなりのスペースを割いています。

ピルに反対の主張をさらに支持するために、スペインのデルガド—ロドリゲスは子宮頸管上皮内腫瘍(CIN)の3段階つまり腫瘍(組織または器官が異常に発育すること)、上皮内癌(治療可能、悪性にまだなっていない)、子宮頸浸潤癌について、1992年までに出版された全研究の論評を発表しました。自分たちの研究のある程度の限界は認めつつも、彼らは以下のように結論づけています。「経口避妊剤の使用は、子宮頸癌の発達の全段階において危険要因であるかも知れません。つまり、それには発癌作用があることを意味するのかも知れません」(強調は著者による)。118

この研究によっていくつかの顕著な論点が提起されました。まず、その所見には以前の多くの研究との矛盾がありません。これは単なる観察ですが、決して過小評価してはなりません。どのような型の調査であっても首尾一貫していることは非常に重要です。次に、もっと大事なのは、この研究が以前の研究者によって使われてきた用語に決定的変更を加えたことです。

過去に、ピルは単に、子宮頸癌を「助長」するだけであると言われていました。この用語は癌の「原因」が他のエージェントであり、ピルにはそれほど責任がないことを前提にしています。今や、ピルは癌を「触発するもの」と呼ばれるようになり、子宮頸癌に対して、ピルが全責任を取らねばならなくなりました。ピルに帰せられる責任の種類に変更が加えられています。

1993年、クジャエールと協力者たちは、上皮内癌(CIS)発症が確認できたコペンハーゲン在住の女性586人を対象とする研究を発表しました。この研究は6〜9年間のピル使用者には、非使用者と比較して子宮頸管上皮内癌(CIS)にかかる率が90%高いことを示しました。119(RR1.9, CI 1.1-3.1)

これらの発見が首尾一貫しているだけでなく、異なる文化的背景(ノルウェイ、スペイン、イギリス、アメリカ)からのものであることには意味があります。この多様性は環境的、栄養学的、遺伝的影響に原因があるとする従来の強い考えに反駁しているようです。

現時点に近づくにつれて、ライプツィッヒ大学の研究チームが、これまで報告された中でも最大の危険率の一つについて、詳しく報告しています。コーラーとヴュトケは子宮頸管表皮内腫瘍(CIN)、または子宮頸管上皮内癌のある309人の診療歴を調べた後で、ホルモン避妊剤使用者は非使用者と比較して相対的危険率が250%であることを詳しく報告しました(RR3.5,p=0.006)。この研究チームによるその他の直接的に関係ある事項は「経口避妊剤の安易かつ長期にわたる使用は、相対的危険率の高まりと関係がありました」(強調は筆者による)120

わたしの強調が示すことを狙ったこの最後の引用は「安易な使用」とは何か、安易な使用がなぜ問題になるかという点を曖昧にしたままではあるものの、無味乾燥な、医学的研究の臨床報告には珍しい微妙な批判を含んでいます。

2.5 アメリカとオーストラリアでの子宮頸癌の発生

もっと最近のことになりますが、南カリフォルニア大学予防医学部のウルシン博士による報告は、全子宮頸管腫瘍の10〜15%をしめる線癌121が生理的に顕在化する前にかかるであろう時間の量(潜伏期)について非常に役立つ歴史的展望を提供してくれました。

アメリカの子宮頸部線癌の発生は、35歳以下の女性の場合だと、1970年代初期と1980年代中期の間に2倍以上増えました。この増加は1960年代初期の経口避妊ピル導入のために起こったと言われています。122

(N.B.その他のタイプの子宮頸癌は扁平上皮細胞癌として知られ、全例の85%がこれに該当します。)グラフ1はアメリカ女性、特に気がかりなのは、1988〜1992年の期間の20〜35歳の年齢群に見られる子宮頸癌の急増を示します。以上はウルシン博士の正しさを人口学的にも支持しています。

同様な傾向がオーストラリアでも見られます。グラフ2は子宮頸部線癌の100,000人あたりの年齢別発生率を示すものです。特に心配になるのは1988〜1992年の15〜19歳の年齢別グループに見られる線癌発生です。1988年以前、ニュー・サウス・ウェルス地方でこのまだとても若いグループに線癌の発症報告はありませんでした。若年層に「経口避妊剤の安易な使用…」123があったのは、部分的にはこの医学的出来事に責任があったのではなかろうかと考えるのは、理に叶った推理を越えるものでしょうか?

グラフ1 子宮頸部浸潤癌。100,000人の合衆国女性年齢別の年間発症率1981〜85年(シュレッセルマンJJ)124

 

グラフ2 100,000人あたりの(子宮頸部線癌)年齢別発症率125(オーストラリアNSW)

 

提供 疫学省、NSW癌委員会(1996)

(右側は女性の年齢別グループ)

ウルシン博士の発見は、以前からの数多い他の研究者による発見と一致しています。ウルシン博士は以下のように述べています。

非使用者と比較して、経口避妊薬の使用は子宮頸部線癌にかかる二倍の危険率と関連があります。12年以上経口避妊薬を使用していると最高(340%の)危険率が観察されました。126

ウルシン博士とピータース博士は、さらに「特に社会的経済的に上層階級の20〜35歳のグループに多かった」と報告しました。127繰り返しますが、、医学的研究の発見という観点から若い女性の罹病性の高さは注目に値します。もう一つの顕著な、また心配になる点は「経口避妊薬を1〜6カ月使用した女性には2.9の確率(OR)がある」128という研究者の観察です。OR=odds ratioは線癌にかかる率が1〜6カ月の間であってもピル非使用者と比較して、ピル使用者にとっては190%高い(約2倍)ということです。

ピルの短期間使用に伴うこの高い確率OR—危険率—は、長期間のピル使用だけが危険要因であるとしていた(ベラルとハンナフォード、1988とかブリントン、1991の)それまでのいくつかの考えとは違っています。この調査は、他の人たちよりもピルホルモンの効果にもっと敏感で、普通の人たちより早く子宮頸癌による障害の臨床症状を示す女性たちがいることを示唆するものかも知れません。

1994年のもう一つの重要な論文は、ブリッソンと同僚たちによるものでした。これらカナダ人の研究者たちは、研究のために2,168人の女性を募集し、世界各地での調査と非常に類似した結果を報告しています。

高年(子宮頸管)における病変の危険率も、経口避妊薬使用期間と比例して増加しました。例えば、ピルを6年以上使用した女性は、非使用者と比較して高年になってからCINにかかる危険性は倍増(倍増は100%の増加)しました。129

世界保健機構によって出版された「腫瘍形成とステロイド避妊剤の共同研究」(1995)は、1979から1988年にわたってチリ、タイ、メキシコで募集された10,979人の女性たちに関する調査を報告しました。世界保健機構の研究は、他の要因(年齢、コンドーム使用の有無、結婚歴、避妊剤使用の有無、妊娠中絶歴、妊娠回数、パパニコロー染色検査など)を考慮に入れても「経口避妊薬使用経験者は非使用者と比較して、上皮内癌にかかる可能性が30%高かったのです。」130

「世界保健機構第二次腫瘍形成とステロイド避妊剤の共同研究」(1996年6月6日)は、20歳以下のピル使用者が子宮頸部線癌にかかる可能性は、280%も高いことを報告しました。遍在する人工ホルモン作用に若年女性の身体がいかに傷つき易いかが再度証明されました。非使用者と比較すると、20〜24歳の場合は70%、25〜29歳の場合は40%高い危険率がありました。131その他の重要な発見は、子宮頸癌の危険率はピル使用期間と正比例したこと、最終使用から期間が経つと危険率が低下したことなどです。わたしの意見では、これら二つの発見は子宮頸癌に関してピルが演じる重要な役割が存在するという考え方を支持するものです。

同年に、British Journal of Cancer(1996)はオックスフォード家族計画協会による避妊の研究の12年間の延長について報告しました。研究者たちは、ピルを現在使用している女性の間で、各種の子宮頸管腫瘍(補遺を見よ)の発症の危険率は、もしピルの服用が49〜72カ月以上であれば234%増加することに気づきました。132この危険率は期間がそれ以上延長されるに伴って減少しましたが、それでも高いことに変わりありませんでした。97カ月以上ピルを服用していると危険率の増加は104%でした。

この研究で、HPVの影響は「比較的低い」と考えられます。なぜなら、「研究対象になった女性たちは全員結婚しており、大部分(69%)は性的パートナーが一人しかいないと報告しています…しかし重要な点は、この研究の対象になっている女性たちのHPV感染の危険率に関係があり得た彼女たちの夫の性的パートナーの数に関して、データは皆無でした。」133

最後に、乳癌の病因論学における妊娠中絶の役割に関する現在の論争という文脈の中で、ゾンデルヴァンは人工流産の経験がある女性において子宮頸癌の発症が増加していることを指摘しました。これらの女性は「人工流産の経験のない女性と比較して、全般的に見て、子宮頸管腫瘍にかかる危険率がかなり高かったのです(OR=1.78,p< 0.04)」134ORが1.78であることは、人工流産によって誘発される子宮頸癌の危険率上昇が78%であるということです。

以上の研究を調べた後で、一般レベルで広がったピルの使用、そして関連する相対的危険率がどういう影響をもたらすのか、というもう一つ重要な問題が残ります。これらの統計的危険率は単に理論的な確率なのでしょうか? これらの重要な疑問にはシュレッセルマン(1995)が答えてくれています。彼はピル使用と癌に関して1980年から1994年7月までに出版されたすべての研究について調査し、その結果をMEDLINEデータベースに載せました。彼は、ピルを使用しない年齢20〜54歳の女性100,000人に子宮頸癌の発生数は425例であると推定しました。8年間ピルを使用した100,000人の女性には、その他に125例の子宮頸癌があったと推定しました。135

奇異なことですが、シュレッセルマンは「一般人口の側面から見ると、経口避妊薬使用に関して、癌に関連する危険率と利点は小さいので、それらが相殺して、最終的結果は無視できる」と考えました。136わたしはこういう考え方に同意できません。100,000人のピル非使用者に見られた425例の子宮頸癌より、ピル使用者の子宮頸癌が125例も増加しているのは、約30%の増加になります。子宮頸癌が女性性器官系統で2番目に多い悪性腫瘍であることを考えると、137少なくともその中の30%は避けることができた疾病であったのに、避けなかった事実は悲劇的です。

2.6 ピル、ヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)と子宮頸癌

ここまで、本章の焦点はピルと子宮頸癌の関係についてでした。しかし、子宮頸癌に関連するもう一つの重大な問題が存在します。初期の医学文献は、子宮頸癌の触発または助長に関係があるかも知れない性的感染「エージェント」に言及していました。例えばLancet(1988)で、アームストロングは以下の観察を発表しています。

…子宮頸癌が性病に起因するかも知れないことは、女性または彼女の夫の性的パートナーの数との関連が強く示唆しています。138

彼は、この性的感染の可能性をさらに以下のように主張しました。

…20年以上にもわたって、第二型単純ヘルペスが第一にやり玉に挙がっていましたが、このウイルスの役割が可能ではあるとしても、最近ある種のヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)に注意が向けられるようになりました。139

 

これら2種類のウイルス、第Ⅱ 型単純ヘルペス(HSV-2)とHPVは肝要です。HSV-2は95%の性器ヘルペスの例の原因になっています(残りの5%はHSV-1に起因します)。140性器ヘルペスの症状はしばしば不快感を伴い、衰弱をもたらしさえします。時としてはその他の細菌とか真菌類の感染を伴います。しかしThe Merck Manualのように広く使用される医学の教科書に癌はHSV-2感染の徴候、症状、合併症であるとは書かれてありません。141

その反面、HPV感染はHSV-1 & 2より、もっと重大な医学的影響があり得ます。HPV感染と関連しては2種の症状があります。第一、HPVに感染した女性にはcondylomata acuminataとして知られる性器の疣贅ができる可能性があります。性器の疣贅の原因となることが分かっているHPVの亜類型は、1、2、6、11、16、18です。142重要なことは、condylomataはその性質が良性であって、生命にかかわることはありません。143医学的にもっと重要な亜類型(16、18、31、33、35)は、かなり不都合な結果をもたらし得ます。これらの亜類型は、「子宮頸管腫瘍の病因論学では連座させられています。」144

読者は、亜類型の16と18が良性の疣贅と子宮頸癌両方の原因になることに気づかれたでしょう。ギッチュ、カインツ、同僚の研究を論評するとき、これが非常に重要な点であることを示しましょう。

この段階で、以上の考察から一つの基本的疑問が出てきます。HPVの関わりは、子宮頸管腫瘍の病因論学では、ピルホルモンの存在とかかわりなく癌細胞変化を触発する原因の一つなのでしょうか? それともHPVは、二次的原因としてピルに触発された癌を助長するに留まるのでしょうか?

1989年には、両方の考えを支持する研究や議論もあって、医学界がこの点で二分されていたと言えるでしょう。

例えば、チャン(1989)は、子宮頸管の前癌病変のある女性にとって「ホルモン避妊剤を使用する女性にはHPVに感染度が比較的高かった」と主張しました。さらに以下を言っています。

もしホルモン避妊剤使用と同時的HPV感染が、子宮頸管腫瘍(癌)と関連があり、さらにこの意見を実験室での証拠が支持するのであれば、もっと調査する必要があります。なぜならこの感染は深刻だからです。145(H.P.V.については用語解説のページを見よ)。

次の年、チャンの心配は確認されました。1990年、ヒルデシャイム、リーヴス、その同僚たちの研究は、最近または長期にわたるピル使用歴のある女性で、子宮頸部浸潤癌発症のある場合に、HPV感染の危険率がそれぞれ130%と190%(2.3倍と2.9倍)高いことを報告しました。またさらに以下を述べています。

わたしたちの所見によると、子宮頸癌の起源は、HPV感染と経口避妊薬使用との関連か、または経口避妊薬使用者の腫瘍にあるHPVゲノム(遺伝学)の増幅された活動であることを示唆しています。146

はっきりとは言われていませんが、この報告は、ことに引個所用は「起源」ということばを使用していることからしても、子宮頸管組織のHPV・ピル複合体の「initiator」の役割を支持していると解釈され得ます。

同年パテルと同僚たちの研究(American Journal of Obstetrics and Gynecology)は、以下のように結論づけています。

子宮頸癌の原因として、ある種のヒト・パピローマ・ウイルスの役割を支持する強力な証拠が存在します。ヒト・パピローマ・ウイルスだけでなく、ホルモン(つまりピル)のような他のエージェントが、このタイプの腫瘍においては共犯者として連座させられています。147

この研究はHPVが、特にピルの中にあるプロゲステロン混合物のようなホルモンから共犯者としての「協力」を得て子宮頸癌触発エージェントとして、作用することを示唆しています。

ルイーズ・ブリントン(1991)もこのトピックに関して論評を書き、ピルとHPV両者の間に見られる発癌相互作用についてのチャンの憂慮を支持しました。しかし、彼女の場合は、どちらかと言えばもっと「推進者」としての役割を重視していました。以下を読んで下さい。

経口避妊薬の推進的効果の可能性が、最近の使用に関連するより高い危険率によって示唆されています…それに付け加えて、経口避妊薬は、子宮頸癌の第一被疑者であるエージェントHPVの蔓延を引き起こす可能性があります。148

ブリントン博士は、この関係のメカニズムを以下のように示唆しました。

…経口避妊薬は、変異誘発物質の侵入を容易にする性周期「クリアチャンネル」粘液分泌と、ウイルス性エージェントに対する感染性を高める免疫学的変化とに関連づけられてきました。諸ホルモンも、試験管の中であれ生体の中であれ、HPVゲノムの転写力を高めることが知られています。149

一般向けに上記の引用を言い直せば、「ピルは癌の原因になる物質が女性の体の中に侵入しやすくさせるタイプの子宮頸管粘液を分泌させます。諸ホルモンは人体中でも実験室中でも、ヒト・パピローマ・ウイルスの転写と模写を助けることもします。」

ついでながら、パピローマ・ウイルスという言葉のギリシア語とラテン語の語源を知るのは興味深いことです。Omaはギリシア語で腫瘍、virusはラテン語で毒を意味します。150

1991年、ギッチュと同僚は、以下に引用する重要な報告をものにしました。

…過去数年間にわたって、いくつかの研究は子宮頸管腫瘍の発生において、諸ホルモンとHPV感染間の相互作用を指摘しています…わたしたちのデータは、経口避妊薬がHPV感染を合併すると、良性の病変と軽度の異形成上皮の進行を、中程度または進んだ異形成上皮に、変化または促進させることを示唆しています。151

ギッチュは、ピル非使用女性にとってHPV最高感染率は癌でない良性の疣贅への病変であるのに、ピルを使用した女性にとって、HPV感染の最高感染率は癌にかかっている組織にであったことを報告しました。ここから、ピルはHPVと共に良性の病変を変化させて、癌にしてしまうと結論できたのです。

ギッチュからの結論は、正にルイーズ・ブリントンによって提唱されていた因果関係の受容体理論に連なるものです。

子宮頸管組織にあるホルモン受容体の発見と経口避妊薬が、子宮頸管組織の過形成を誘発することが発見された事実を考慮すると、(ピルホルモンと子宮頸癌の間にある)関係は生物学的に可能です。152

次年、ギッチュは以前引用した研究のすべての結果を出版しました。そこで提示される証拠によれば、ピルが子宮頸管の疣贅におけるHIVの活性化を促し、その結果、疣贅は良性の状態から前癌状態に変化するので、ここではその報告を広く引用しましょう(CIN I,II,III-補遺3を見よ)。引用には適宜に解説を加えることにします。出典を明示するのは簡単ではありませんが、皆さんにも是非取り寄せて読んで欲しいものです。

HPVは142人(本研究で、子宮頸管上皮内腫瘍のあるなしにかかわらず良性の病変があったために選ばれた対象者の総計)中の48%に見られました。経口避妊薬使用者の間に進んだ上皮内癌に、比較的に高いHPV感染率がある顕著な傾向が見られました。経口避妊薬非使用者の間で、結果は正反対でした。HPVの最高感染率は、異形成と軽度異形成上皮のない良性コンジローマ中に発見されました。HPV6/11,16/18,31/33型の分布は、経口避妊薬使用者と非使用者の間で差が見られませんでした。153

このように、ピル使用者にも非使用者にも、種々のタイプのHPVが均等に分布していたのですが、ピル使用者に限っては前癌子宮頸管組織にもっとも進んだHPVの最大集中が見られました。ピル非使用者の場合はどうかというと、HPVにもっとも冒されている子宮頸管組織は非悪性の子宮頸管疣贅でしかありませんでした。HPVが両グループの女性に均等に見られるのに、ピル使用者に限って、どのようにして子宮頸管組織が癌化するのでしょうか? 以下が答です。

(ピルのような)ステロイド・ホルモンと、HPVや子宮頸癌の発生との間の相互作用は、いくつかの生物学的、医学的研究が取り扱ってきています。子宮頸管組織にはホルモンの受容器があり、ホルモン投与は組織学的(細胞の)変更を加え得ます。HPV16DNAの転写部位には、ホルモンを認識する要素が存在するので、経口避妊薬と子宮頸癌の間には相互作用があるかも知れません。154(HPV16の構造にはピルに含まれるホルモンを認識・反応する部位があります)。

ですから、子宮頸管組織にもHPVにもそれぞれの構造の中にピルの中に含有される諸ホルモンを認識・相互作用する細胞部位があることが、すでに証明されています。(ブリントンが提示したように)子宮頸管組織の中の受容器だけでなく、同一の子宮頸管組織に感染するHPV中の部位も諸ホルモンに影響されます。上記の研究は、諸ホルモンがウイルスの自己増殖の増加を刺激すると提唱しました。ピル使用者にとって、これは危険が倍増することを意味します。

しかし、研究者たちはどのようにしてこのことについて確信を持てるのでしょうか? そして、もしホルモンが関係するとすれば、どのホルモンが子宮頸管細胞とこれら細胞内のHPV感染によって認識されるのでしょうか?

第二の報告で、同グループ(パテルと同僚たち、1990年)はHPV16DNAによる赤ちゃんネズミの腎臓細胞の発癌性形質転換(腫瘍発達の触発と助長過程)が…プロゲステロンまたはその派生物質ノルゲストレル(どのピルにも共通する成分)の存在によることの証拠を提出しました…これは、経口避妊薬使用が可能性としてはウイルスの活動と、HPVが子宮頸管上皮細胞の形質転換をもたらす蓋然性をを高めることによって、高度のCINと浸潤性癌の危険要因かも知れないことを示します。155

ですから、プロゲステロンまたはノルゲストレルが存在しなかったら、赤ちゃんネズミのHPV16に感染した腎臓細胞は、健康な腎臓細胞が腫瘍組織に形質転換するきっかけにならなかったはずでした。この証拠に基づくだけでも、HPV感染していると診断されたすべての女性ピル使用を避けるべきです。

では以下に研究者たちの結論を見てみましょう。

データは、進んだ子宮頸管異形成上皮でのHPV陽性は、経口避妊ピル非使用者と比較して、使用者の間に顕著に増加したことも示しています。非使用者の余り進んでいないCINにおけるHPVの高い発見率は、これらの患者のHPV陽性異形成上皮が安定するか自然に退縮することを示唆するのかも知れません。HPV感染がある場合、経口避妊薬使用は低度から高度の異形成上皮への進行を促し、結果的にCINの比較的進行した状態において、HPV陽性を増加させるように見えます。この仮説は「危険率の高い」HPV31/33と16/18の発症率が、経口避妊薬使用者と非使用者両グループでほとんど同程度であった、という事実によって支持されます。わたしたちの結果は、経口避妊薬はHPV感染による腫瘍の変化の可能性を高めることを示唆します。156

乳癌の場合と同じく、ピルが果たす重要な役割が問題になっています。この研究では、使用者にも非使用者にもHPV感染がありました。しかし、ピル使用者グループだけに第3段階子宮頸管前癌病変が見られたのです。非使用者はHPV感染の結果に苦しむことがありませんでした。後者にあって、性器の疣贅は、HPVの存在を示しはしたものの、症状固定つまり前癌状態にならなかったか、または実際に退縮したかのいずれかでした。

わたしの推測では、彼女たちの性器の疣贅が固定または退縮した罹患歴から見ても、ピル非使用者には、HPVウイルスをコントロールする免疫学的能力があるように見えます。この有益な免疫反応はピル使用者にはありません。彼女らの免疫システムはHPV陽性の増加によって「圧倒されて」いるように見えます。ピルホルモンとHPVの相互作用の結果は、HPV16複製の増加、子宮頸管組織におけるHPV陽性の増加、従って進んだCINの増加です。この画期的研究のこれらの結論はどうしても以上のようになります。

HPVに感染したピル非使用女性たちにとって、癌でない子宮頸管の疣贅が、進んだ前癌CINになることはありませんでした。ピル非使用者のHPV感染は進んだCINに発展しなかったので、この研究は、子宮頸癌をピルが触発するという学説を支持することになります。実に、多くの女性にとって、ピルホルモンが体内に存在しない場合、健康状態は改善されたのです。

図式にしてみると、この研究は以下のようになります。

ピル非使用者のHPV感染→子宮頸管の非悪性疣贅→健康状態の安定または改善

経口避妊薬使用者のHPV感染→HPV16が子宮頸管に存在する可能性が大になる→進んだ前癌病変の発達

ギッチュ(1992)の立場をさらに押し進めたブリッソンはAmerican Journal of Epidemiology (AJE, 1994)誌上で以下のように報告しました。

HPV16DNAの存在は、進んだCINの推定相対危険率の8.7倍もの高まりと関連がありました。進んだCINになる相対危険率はHPV16DNAの量と共に増加しました。157 

ブリッソンの研究は、もしHPV感染があると、子宮頸管前癌病変の危険が770%増加したことを示しました。この研究は、進んだCINはHPVの存在と緊密な関係があるとするギッチュの発見を支持するものです。

1995年、さらに説得力ある証拠が発表され、HPVの存在と子宮頸管組織に留まる外因的諸ホルモンが子宮頸癌の発生に関連づけられました。

これらの研究の典型的なものが、1995年3月に出版されたJ.T.コックスによる研究です。

…子宮頸癌の病因論で、特定HPVタイプを連座させるための証拠は、今や非常に強くなって、もはや原因になったとさえ言えます。158

この「原因」にしてしまった種々の特徴の中で、主なものを以下に挙げます。HPV感染の機会は、特に、性的に活発だったティーンエイジャーの間で頻繁にありました。進んでいない状態から進んだ状態のCIN(補遺3を見よ)に悪化する率は、約3分の1の例で見られました。HPV感染自体は、進んだ前浸潤癌CINから子宮頸部浸潤癌に「ジャンプ」させるには不十分で、前浸潤癌CIN3から浸潤癌状態に「ジャンプ」させるためには共犯者が必要でした(共犯者には喫煙、経口避妊薬と妊娠によるホルモンの影響、貧困な食生活、免疫不全、慢性的炎症が挙げられます)。159

同様な雰囲気で、ボッシュと同僚たちは(J Natl Cancer Inst, 1995)22カ国にまたがる32の病院にいる1000人の患者から採集した腫瘍標本の93%に、HPVが存在していたことを報告しました。それは研究者たちの以下の結論になりました。

…性器ヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)と子宮頸癌の間には、他の危険要因とは無関係に、強い相関関係が複数の国にわたってみられます。160

慢性子宮頸管異形成上皮の発症におけるHPV感染のこの排他的役割、つまり子宮頸部浸潤癌の先駆的段階は、1995年9月、ホと同僚たちも発表しています。彼らは慢性子宮頸管異形成上皮を、「多量のウイルス荷重」の同時的存在と結びつけました。

パーク、藤原、ライトも、1995年11月、子宮頸癌にHPVが関係するとする文献を付け加えました。

子宮頸癌は、子宮頸管上皮内腫瘍(CIN)または扁平上皮内病変(SIL)として知られる明確な前駆的病変から発達します。今や、ヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)の特殊タイプは、子宮頸癌とその前駆者の主要病因論的エージェントとして知られています。162(CINとSILは同義語)163

社会的に重要な以下の発見は、トマスと同僚たちによってなされました(AJE,1996)。

…女性が性的に感染するかもしれない発癌物質への接触時期と、子宮頸部浸潤癌の診断の間にある、平均潜伏期は四分の一世紀です。164

ある場合、子宮頸癌は初期の感染から6年以内に発見されました。しかし45年間も発見されなかった例もあります。165潜伏期とは、この場合は性的に感染したものですが、有害物質との接触と発見し得る副作用、この場合は子宮頸癌、の間にある期間のことです。この長い潜伏期が意味するのは、性的に活発な若年女性または乱交に走るパートナーのいる単婚の女性には、彼女が30歳代か40歳代初期になるまで発見できないかも知れない子宮頸癌にかかる危険が大きくなるということです。心理学的、肉体的ダメージの他に、このような診断は家庭的にも、特に夫婦の調和とか信頼の面で、有害な影響があり得ます。

2.7 ピル HPVの生物学的活性体

異論はあるかもしれないものの、医学界にピルの安全性をどのように見るか再検討させるに当たってもっとも影響力があるのは、チェンと同僚たち(1996)の論文でしょう。彼らの独創的研究は、反論を許さないほど、ある種のピル・ホルモンがウイルスに接触した細胞において、HPV16の(ある程度まではHPV18も)発癌効果を高めることを支持しました。この過程はHPV16のホルモン依存トランス活性化として知られます。166広い意味で、諸ピル・ホルモンはウイルスからホスト(子宮頸管)細胞への遺伝学的物質のより高速な「混合」または組み込みを可能にします。

まとめてみますと、選択されたプロゲステロンとエストロゲンはHPV遺伝子活動の特異刺激を誘発しました。子宮頸癌の相対的危険率に関するこれらHVPを誘発するエストロゲンまたはプロゲステロン含有の経口避妊薬の評価のために、この情報は特別に重要です。167

異なる「避妊」ホルモンによる「HPV遺伝子活動の特異刺激」は非常に意義があります。著者たちが言っているように、子宮頸癌と「HPVに関連するHIVと子宮頸癌の存在と進行程度」へのピル使用期間の影響については、相反する報告が見られます。168この一見「逆説」への答は、異なるブランドのピルに含有される種々のホルモンに関連しているか、またはそれに依存するのかも知れません。169簡単に言えば、異なるピル処方を研究したいろいろな研究は必ずしも同一でない結果になるでしょう。そこから、将来において、研究者は研究対象になった女性たちが服用するピルのホルモン構成に自分たちの結果が依存することを念頭に置く必要があります。

チェンが報告してくれたこの調査は、実に、科学的討議を「ピルは子宮頸癌と関わりがあるだろうか?」という以前の姿勢から「このようにしてそうなる」に変えてしまいました。この強調点のシフトは注目に値します。今やこれは明白に、科学的仮説の試験から、細胞レベルで証明できる事実の立証段階への移行を示します。チェン(1996)の業績は、統計・疫学からもっと新しい分子学的疫学へのシフトを代表するものです。170つまり、わたしが本書で参照する研究の大部分は「危険率要因と疾病の間にある相関関係に注目する」伝統的方法に従っているということです。171この古典的研究態度に対比して、チェン(1996)の業績は「分子論的疫学」172、173です。それは、人間疾病の研究がもう危険因子と病気の関係によるのでなく、細胞と接触する発癌物質の分子レベルで観察可能な行動の研究であることを示す用語です。少しく饒舌のきらいはありますが、テストチューブが計算機を追い払ったのです。チェンの研究の意義は広範です。174

    

わたしは、巻末の膨大な註に関連する専門的情報と共に諸ホルモンを列挙しておきました。その目的は明らかに原典を参照できるようにするためですが、その他にもこれらの文献が入手困難であるという理由がありました。このように長い引用を提供することによって、読者がわたしと同じ困難に苦しまないで済むことを希望します。175この引用があれば幾分か科学的心得のある人たちにとっては、比較的簡単に近づけるでしょう。

ケニー(1996年10月)による研究は、これらの問題について最新の考え方を分かりやすく提示しています。

性器ヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)は、女性にとって二番目に多い癌の形態である子宮頸癌と直接的に関連しています…HPV感染の最高危険率がある女性たちは(a)最初の性行為が15歳以下であり(b)生涯に4人以上のセックス・パートナーがおり(c)一人以上の「一度だけの」セックス・パートナーがおり、(d)16人以上の女性セックス・パートナーがいた複数の男性セックス・パートナーを選んだことのある人たちです。おそらく性器HPV感染の進行に貢献することによって危険率を増加した共同要因は、15歳以前に経口避妊薬の使用を始めたことと三つ以上の性病があったことでした。176

まとめ。ピル—子宮頸癌の関連において、鍵となるリンクとしてピルに含有されるホルモンが関係する強い証拠が存在します。HPVとピルの組み合わせは、子宮頸癌の危険率を、ピルだけまたはHPVだけよりも、増加させました。

2.8  終わりに

このトピックに関する国際研究計画に基づいて、政府認可の患者用情報リーフレットに以下の記述があるのは理解に苦しみます。

現在の段階では、比較的高い癌の危険率が経口避妊薬と関連していることを示す人間対象の研究からの確認された証拠は、存在しません。177

現実はその正反対です。証拠はあります。なぜ薬品規制の省庁の責任者が現在、政府承認の元に流布されている医学情報リーフレットにある誤謬に気づかないのか、わたしは不思議で仕方ありません。

2.9 鍵になるポイント

1 ピルと子宮頸癌の関連は医学研究者によって確立されており、その証明には疑いを挟めません。

2 癌の危険率は研究によって異なります。しかしすべては、それ以他には健康な女性たちをどのように治療しないか、という文脈のもとで見るとき受け入れることができません。

3 ピル使用、HPV、子宮頸癌の増加した危険率の間には強い連関があります。ピル使用の場合、HPVだけの危険よりもはるかに高い決定的危険率が存在します。

4 5-6年というピルの比較的短期間使用でさえも、高危険率要因です。

 5 若年女性たちがもっとも危険にさらされるグループです。

結論として、ギルボー教授(1995)が以下を述べたことは非常に適切なことでした。「ピルが安全であるということは、ピルに危険がないという意味ではありません。」178「安全」という言葉が、今後は「ピル」という言葉と同じ文章では使用されてもいいものかどうかを疑問に思うことが適切なのかも知れません。