一章
ピルはどのように作用し、またどのように作用しないか?
「最新低用量ピルの卵胞発育抑制は不完全」2
1.1 導入
ピルの生物学的作用の理解は、ここで検討する研究の今日性にとって決定的に重要です。その理解なくして、本書の意義は無に帰します。その成功も失敗も含めて、ピルの薬理学は、デポ・プロベラ、ノルプラント、性交後の「避妊」、Ru-486と関連があります。ピルの理解は、これら他の薬品がどのように作用するかの理解につながります。
1.2 言葉と意味
ここ何年かの間、過度の言語操作が行われ、その結果、胎生学における多くの基本的定義の言語学的意味が変形させられてしまいました。異論はあるかも知れませんが、女性の生殖に関してもっとも間違って使用され、それ故に気をつけねばならない言葉は受胎、3妊娠、4、5、6避妊7、8、9です。
「受胎」は精子が卵子に入って、授精を行い、生きた接合子10を形成する瞬間の出来事を指します。それは着床の過程を指すものではありません。着床はまったく別の出来事であり、受精後7,8日後に始まり、何日かかかって行われます。女性は着床があったとき妊娠するのでなく、受胎があったときに妊娠するのです。この区別は重要です。本書で検討する医学的、倫理学的問題の多くはこの言葉の正しい定義にかかってきます。
女性は受胎のまさにその瞬間に「新しい個人」を妊娠します。12これが正確で客観的な医学的描写でなくて、何でしょうか? オーストラリアの著名なエイズ研究家ジョン・ドゥワイヤー博士にも同様な発言があります。彼によると精子が卵子に進入する瞬間を「新しいかけがえない個人」が創造される瞬間と呼んでいます。13著名な医学記事筆者デレック・ルエリン・ジョーンズ教授も、精子から出る男性遺伝物質が卵子にある女性の遺伝物質に合体するときに、「新しい個人が形成される」と書いています。14
妊娠を妨げること、つまり精子と卵子の合体を妨げることが避妊です。正確にはコンドーム、ダイアフラム、殺精子剤、精管切除、卵管結紮が避妊法(contraceptionのcontraは「反」を意味するラテン語)などがそれに当たります。受胎が終わった後で使用される薬品または器具による行為は、避妊の行為ではあり得ません。15むしろ「妊娠中絶促進作用がある薬品または器具」が、受胎後に作用するどのような薬品にも器具にも当てはまる正確な生物学的定義なのです。16
受胎、妊娠、避妊に関する上記の定義を支持する医学者の意見の重さを、わたしたちはしかと受け止めたいものです。実に、世界中至る所でもっとも尊敬されている医学の教科書は、上記を定義するに当たって、ほとんど文字通り上記のコピーである定義を使用しています。17、18、19、20、21、22、23 それ以他の定義を使用することは、胎児学と婦人科で受け入れられている言語学的基準の枠他に出てしまうことを意味します。
さて、この基本的作業を終えた今、ピルがどのように作用するかを復習しましょう。
1.2.1. ピルはどのように作用するか?
1 程度の差こそあれ、ピルの種々の処方は排卵を抑制しますが、黄体ホルモン(以下プロゲステロン、プロゲスチンは旧名)24単剤も黄体ホルモン・卵胞ホルモン(以下エストロゲン)混合剤も、常に排卵を抑制するわけではありません。25、26、27
2 どのピルも、程度の差こそあれ、子宮頸管粘液を変質させます。おそらく子宮頸管粘液の粘度が高まり、頸管上部を精子が通過することが比較的困難になります。28
3 プロゲステロン単剤もプロゲステロン・エストロゲン混合剤も、自然の仕組みに従って子宮内膜の増殖的性質を変化させることによって、受精卵を受け止めて養う子宮の内膜を薄く、血管に乏しい分泌期内膜に変化させる原因となります。29、30分泌期内膜は31接合子を生理的に拒絶するのです。32
4 ピルは卵管の動きを変化させる原因になります。その結果、卵子が通過する時間を変化させ、そのために卵子が受精される可能性を低めます。33、34、35
1.2.2 ピル その名前について
ミニピルであれ、混合ピルであれ、以上述べたその作用のメカニズムのどれ一つとして絶対的ではないことに気づくことが重要です。36排卵は、常に抑制されるわけではありません。37、38、39、40子宮頸管粘液が精子にとって常に通過不能になるわけでもありません。41、42子宮内膜が、どの周期においても受精卵を受け入れないような状態になるわけではありません。43、44卵管の動きは精子と卵子の結合を常に抑制するわけではありません。45故に、ミニピル46とか混合ピル47を経口避妊薬と呼ぶのは不正確です。これらのピルには単なる「避妊」以上のことをする作用メカニズムがあります。「避妊」という形容詞は「ピル」という名詞を修飾すべきではありません。ですからこの薬品をわたしは単にピルと呼ぶことにします。しかし、読者は本書で引用する大方の研究者たちが経口避妊薬(oral contraceptive)と言う言葉を使用していることに気づかれるでしょう。
1.2.3 ピルの失敗率と人工流産
すべての女性において、これらの作用の関連メカニズムが必ずしも「成功裡に」作動しないことを示す証拠があるのでしょうか? まず、女性がピルを服用しているにもかかわらず妊娠するというもっとも単純な証拠があります。ピルのこの明らかな失敗の測定法には広く認められた二種類があります。
ピルの失敗つまり妊娠の第一の測定法は理論的有効率として知られます。
どの産児制限法にも共通する理論的有効性は「その方法の最大有効率」つまりそれが間違いなく、完璧に、指示通りに使用されたときの有効率です。48
「理論的」という言葉は、ピル使用に際して完全な条件の下で起こるはずの妊娠率のことです。
ピル使用中の妊娠を測定する第二の方法は実際上の有効率です。この有効率は実生活の中で実際に起こる妊娠率のことです。それは、「人間的要素」つまりピルを正しく使用する人たちと正しく使用しない人たちにかかわる、多くの側面を計算に入れます。49
プロゲステロン単剤(ミニピル)の理論的有効率は98.5〜99%です。それが意味するのは100人中1〜1.5人の女性だけが妊娠するということです。実際上の有効率はもっと低く、90〜95%で、5〜10人の女性が妊娠するということです。50
混合ピルの理論的有効率は99.66%、つまり0.34%の女性または10,000人中34人が妊娠するということです。混合ピルの実際上の有効率は90〜96%です。つまり4〜10%の女性が妊娠することを意味します。51オーストラリアの医事科学ジャーナリスト、メリッサ・スウイートは同様の数値を持つ実際上の有効率を発表しています。52
これらの数値を示すには、単にピルを使用している全女性数のパーセントとして理論的または実際上の有効率を示すのでなく、もっと意味のある方法があります。それはパール指数といわれます。この指数はある特定のピルを一年間使用した100人の女性の妊娠数を予測できるかを測定します。53読者もお分かりのように、パール指数は(パーセント算出時と同様に)ピル使用者の数を考慮に入れると同時に、女性がピルを使用する期間も計算に入れます。
パール指数を使用すると、ミニピルの理論上の有効率は100女性年について0.3妊娠であると言われています。54しかし、実際上の有効率は「100女性年について1〜4妊娠」となっています。55他の研究者たちもこれらの数値を確認しています。56
混合ピルの理論上有効パール指数には幅があり、100女性年について0.2〜0.34妊娠であると言われます。57、58混合ピルの実際上有効パール指数は、クーによれば、既婚女性に関しては100女性年について0.5 〜3妊娠、59他の研究者の報告によれば、既婚女性に関しては100女性年について3妊娠、未婚女性に関しては100女性年について6妊娠にもなると言われます。60
理論上の有効率と実際上の有効率の間になぜかなり開きがあるかと言えば、それは患者のコンプライアンスに差異があるからです。「患者のコンプライアンス」とは患者がいかに薬品を続けて、正しく服用するかを意味します。
患者のコンプライアンスを低める要因は錠剤の飲み忘れ、気分が悪くなり嘔吐することによる服用量の減少、61抗生物質、大量のビタミンC、抗てんかん薬、睡眠薬、抗結核薬リファンピシンの服用などです。62、63、64
患者のコンプライアンスの低さがピルの失敗、つまり妊娠をもたらし得ますが、別の生理学的現象が、コンプライアンスが高いと思われる女性の予期しない妊娠をもっとよく説明するかも知れません。それは「すり抜け排卵=breakthrough ovulation」と呼ばれます。名前のとおり、それは女性が毎日ピルを正しく服用していても起きる排卵のことです。
これはピルのメカニズムが必ずしも常に作用するわけではなく、従ってピルを使用していても排卵が起きるもう一つの証拠になります。この分野で先駆者的研究をしたのはユトレヒト大学産婦人学科のニーネ・ヴァン・デル・ヴァンゲ博士です。65彼女の研究の成果はジャカルタで開催された避妊推進学会(1984)で発表され、1987年バターワースによってロンドンで出版されました。
ヴァン・デル・ヴァンゲ博士の研究は高解像度超音波を使用し、視覚的に「低用量経口避妊ピルによる卵巣活動の抑圧は完全からほど遠い」ことを証明しました。66この視覚的証明は血中エストラジオール(E2)・レベルと血清プロゲステロン(P)レベルの測定も立証しています。排卵前後には(E2)及び(P)などのホルモンが見られますが、これら「排卵」に関連するホルモンの存在は超音波も証明しています。つまり成熟状態にいたる卵巣活動と、卵胞の破裂—成熟卵子の放出が起きたことが確認されています。67彼女の研究は、研究対象になったほとんどの女性の420周期の中の6周期ですり抜け排卵があったことを突き止めました。これらの数値に数学的公式を適用してみると、厳密にコントロールされたコンプライアンスの高い研究グループの中でも、100女性年について17回の排卵があり得ることが証明されています。
超音波によるこの研究の有効性とその所見の正しさは、最高の権威者たちからも認められています。
超音波技術の到来によって、わたしたちは経口避妊薬を使用する女性たちの卵巣機能を注意深く観察できるようになりました。以前の推測と比較して、女性には、人によって違いはあるものの、卵胞の発育と同時に起こる血漿エストラジオール・レベルによって特徴づけられる残留卵巣活動が存在することが分かってきました。68
この超音波とE2/P複合法を使用した他の研究者たちも、すり抜け排卵を報告しています。グライムと同僚は(1994年)「現代低用量ピルを用いる卵胞発育阻止は不完全である」と言っています。69実に、この研究はヴァン・デル・ヴァンゲ博士の研究より高い100女性年について26.7回のすり抜け排卵率を報告しました。70重要なことは「患者のピル日記と返還されたピル容器を検討してみると、実際にあった排卵は(女性が)指示に従わなかったために起きたようには見えなかったということです。」71つまり患者は指示に忠実に従ったのに、排卵はそれを完全に抑制しなかったピルの失敗のために起こったということです。
多くの人たちにとって、混合ピル服用中に起こる排卵の存在は驚きかも知れません。なぜかと言えば、何年もの間にわたって医学界の意見は経口避妊ピル服用中に排卵はないというのが定説だったからです。例えば1978年レウェリン・ジョンズ博士はまさにこのような考え方をしていました。
選択されたピルとして(諸避妊ホルモン)は…卵胞刺激ホルモンと黄体化ホルモンの分泌を抑制するので、排卵は防止されます…72
ヴァン・デル・ヴァンゲ博士の研究結果は興味深い疑問を生みました。もし科学的調査計画にかかわった、熱意と動機のある女性たちのグループに、100女性年につき17回もすり抜け排卵率があるとすれば、なぜこの高い排卵率があるにもかかわらず100女性年について0.34回という低い妊娠率になるのでしょうか? 両方の数値は、高い動機があり、忍耐強く指示に従ったことが確認されている女性たちを対象にした臨床実験、という文脈の中で得られたものです。100女性年につき17という排卵率と100女性年につきわずか0.34回の発見された妊娠率の間にあるかなりの差を説明できる出来事があったのでしょうか?
この質問に、最近、オハイオ州立大学薬理学と毒物・薬物学教授ラルフ・G・ラワン博士が答えてくれました。彼はピルの中絶促進能力について説得力ある例を提示しました。
排卵が、エストロゲンを50mcgまたはそれ以下を含有する(エストロゲンとプロゲステロン混合の)経口避妊薬によって常に抑制されるのではないことを念頭に置くことが重要です。妊娠を抑制するそのほぼ100%に近い効果は、エストロゲンの効果に加えてプロゲステロン成分の持つ子宮頸管と子宮内膜への影響によるものです。この敵対環境が妨害をもたらすのです…73(強調はラワンによる)
妨害とは着床に先んじて起こる薬品による中絶のことです。実際問題として、妨害は受精卵、つまり新しく創造された一人の個人が、子宮内膜に着床することを妨げられることを意味します。国際的にも知られた薬学の教科書、例えばグッドマンとジルマンによるThe Pharmacological Basis of Therapeutics(1990)は、ラワン教授の見方を支持しています。74
ラワン教授の主張を、ここには明記されていないものの、彼がプロライフ運動に好意的であると思って、軽はずみに無視してはなりません。女性が、取り外すことのできなかった避妊リングを使用中に妊娠した場合、彼は「人工流産」を提唱していることも読者には知っていただきたいのです。75ラワン教授が上記を述べているとき、彼は、決して自分の個人的イデオロギーに基づく考えではなく、医学的事実を述べているのです。
合衆国厚生省も中絶促進作用の過程を、ラワン教授と同じように定義づけています。
接合子の生存能力を傷つける処置は、受精の瞬間から陣痛の終了に至るまでのどの時点であっても、厳密な意味では人工流産処置です。76
受精(受胎)に干渉することによって、ピルの中絶促進的な面を減少させるかも知れないその他の要因があるのでしょうか? あります、が答です。ピルは(1)子宮頸管粘液の状態を変更することによる受精の防止、または(2)卵管の運動に影響を与えて精子と卵子が融合できなくすることによって、受胎を防止することができます。いくつかの科学刊行物は、実際問題として、これら二つの可能性はその重要性を減じていることを報じています。
第一の点に関しては、ミニピル(プロゲステロン単剤)でも、混合ピルでも、精子が子宮頸管粘液を通過する際の運動能力へのピルの影響は、ほぼ皆無に近いということです。その理由は「子宮頸管粘液の中への精子進入に関するプロゲステロンの影響は、服用後4時間のとき最大になり、次の16〜20時間そのレベルに留まり、77服用後24時間経つと通常の精子進入が起こるように思われる」78、79からです。
このように、子宮頸管粘液による障壁によってミニピルが提供する4〜8時間の「保護」には時間差があります。最初の4時間の「時間差」はピル服用直後から4時間後の最大効果点の間にあります。第二の4時間の「時間差」はピル服用後24時間の最後に来ます。明らかに、もし女性がミニピルを就寝前つまり性交直前に服用すれば、プロゲステロンの影響は最小でしょう。前夜に服用したピルにはもはや子宮頸管粘液に対する残存効果が期待できません。その夜服用したピルがその効果を発揮するには時間が不足しています。このシナリオは理に叶っているはずです。ニュージーランドからの報告によれば、19人中10人の女性は、就寝直前つまり性交のほぼ直前にミニピルを服用しています。ですから、受胎能力は傷つけられず、ミニピルまたは混合ピルの妊娠中絶促進的側面がそこに強力に存在することになります。79(卵子に向かう精子の運動に影響を与える子宮頸管粘液の性質は、圧倒的にピル処方中のプロゲステロンに関連しています。)80
第二の点である、卵管を下りて来る卵子に与えるピルの影響力は、これまた、それほどないと思われます。エストロゲンとプロゲステロンには卵子の移動時間に関しては相反する作用があります。エストロゲンは卵子の移動を早め、プロゲステロンはそれを遅くさせます。81結果的に、二つのホルモンの作用は相互に中和されてしまうかも知れません。その結果放出された卵子は卵管を平常の速度で下りて来ることになります。
かくして、排卵率と発見された妊娠率の差についての説明がなされます。ミニピルにしても低用量混合ピルにしても、その中絶促進作用に関しては、過去において余り、またはまったく重要視されてきませんでした。
排卵率と妊娠率の差異として計測される、これら二種のピルにある無自覚中絶促進作用率(abortion of undetected pregnancy rate=AUP rate)の衝撃は、発見されなかった妊娠の中絶率と呼べるでしょう。まずはミニピルに関してオーストラリア・ニューサウスウェスト州家族計画協会のエディス・ワイズベルグ博士は、以下のように述べています。「(例の)40%には平常の排卵と平常のホルモン分泌が見られ、排卵周期はまったく平常です。」82
ワイズベルグ博士のこの数値に基づくと、ミニピルを使用する100人の女性中40人には排卵が見られます。しかし、ミニピルを使用する100人の女性中40人が妊娠するのでしょうか? ラワン教授の研究によると、ミニピルの実際の有効(成功)率は90〜95%だそうです。つまり、ミニピル使用中に排卵がある40%の女性たちの中の5から10%だけが発見、確認された妊娠を報告したということです。ですから、排卵するこれらの女性(40%)と妊娠したことが確認される女性(5〜10%)の間にはかなりの差があります。
本人も気づかないミニピルの着床妨害・早期妊娠中絶(AUP)促進能力の理論的最大値を計測するには、ミニピルを使用しているにもかかわらず妊娠が確認された女性の数(100人の女性の中で5〜10人)を、排卵したかも知れない女性の数(100人の女性中に40人)から差し引きます。これが発見されなかった妊娠のミニピルによる薬学的人工流産の数、つまり100人の女性中30〜35人という合計数になります。83これらの計算によって提示された証拠の他に、排卵したかも知れない女性たちよりも妊娠した女性の方が少ない、という事実が意味するのは、ミニピルには、本人も気づかないかなり高い妊娠中絶(AUP)促進能力の理論的最大値があることを意味します。
混合ピルの早期無自覚妊娠中絶率(AUP rate)のある程度の計測は、混合ピルを使用している期間に妊娠が確認された女性の数(100女性年に0.34)を、すり抜け排卵があった女性の数(100女性年に17)から差し引けばいいのです。そうすると、100人の女性中最大17人弱の無自覚妊娠中絶があることになります。
混合ピルの早期無自覚妊娠中絶率は、ミニピルのそれよりも低くなっています。これは二種類のホルモンを含有する混合ピルが、プロゲステロン単剤の処方より排卵抑制効果が高いことから当然です。しかし、早期無自覚妊娠中絶率が高いことに変わりありません。
1.2.4 事例研究
一歳児がいる二十二歳の母親、カサリン・マーティンのケースは、ピルの過信から来る悲劇的結果を強調します。彼女は、1995年7月3日、オーストラリアN.S.W.ショールヘイヴン地区記念病院外来で腹痛を訴え、胃腸炎の治療を受け、その夜遅く帰宅しました。二日後、彼女の夫は、彼女が寝室の床の上で死んでいるのを発見しました。
1997年9月16日のシドニー・モーニング・ヘラルド誌によれば、検死官による検死は低用量ピルを使用し、母乳養育していたにもかかわらず、マーティン夫人は、医師が診断できなかった子宮外妊娠のために死亡したのでした。法廷で、担当医は彼女が低用量ピルを服用し、授乳もしていたので、妊娠の可能性はないと判断した、と供述しました。
もし妊娠の可能性があったと診断されていれば、彼女はそれなりの治療を受けて、命を取り留めていたでしょう。担当医は腹痛を訴える女性が来れば、今後、妊娠テストを必ずすると言っています。
1.3 要点
なぜピルの中絶促進作用の影響をこれほど強調することが必要なのでしょうか?
答は簡単です。多元社会にあって、多くの女性、排他的にではないにせよ、特にユダヤ・キリスト教、回教の伝統を大事にする女性たちが、ピルの作用のすべてを知ることは重要であると考えるからです。自分たちの倫理、宗教、文化的環境に沿う家族計画の実施は彼女たちの権利です。ライフスタイルに関して異なる価値観を持つ他者が、何が重要でありまた重要でない倫理的情報であると女性が感じるべきかを決定するべきではありません。
わたしは事実をありのまま提示しました。なぜかと言えば、この種の情報は医学的専門用語のずる賢い曖昧さの中に潜められている以他には、入手不可能であるからです。女性は一人残らず、自分自身で決定するという自分の権利を行使できなければなりません。