初聖体の二人が出会う!
実現したジャレッドと大統領の面談
ブレント・T・ゼリンゲ
(この記事はNew Oxford Review July-August 1998から同誌の好意により転載)
編集者から一言・読者は驚かれるかも知れないが、南アフリカのレジナ・ムンディ・カトリック教会で御聖体拝領をしたクリントン大統領は、メリーランド州ダメージコントロール町にある聖タルチジウス小教区立小学校を訪問した。ワシントン州にあるジョージタウン大学でジャーナリズムを研究中のミズ・テイクンの司会で、大統領と同小学校二年生のジャレッド君が非公式に面談することになった。ヴィデオに記録された当日の対話はテレビで放映されることも、その他のメディアで発表されることもなく、タルチジオ小学校の児童や教師を失望させていた。二年生を受け持っているミラー夫人がメディアとホワイトハウスに問い合わせたところ、全ての記録の所在は不明というにべもない返事があった。ところが、ニュー・オックスフォード・レビューの読者であり、各所にコネのあるブレント・T・ゼリンゲ氏が先日アーカンソー州から差出人不明の小包を受け取り、その中身は何とそのインタビューのヴィデオテープであるという。彼が直ちに対談を文字化してNOR社に送ってくれたのが以下の文章。ゼリンゲ氏に感謝すると共に、このスクープについて心からの祝意を表したい。
ミズ・テイクン・大統領はお忙しいところをわたしたちとおしゃべりするためにわざわざ来て下さいました。心から感謝いたします。
クリントン・皆さんのような優秀な教師と優れた能力のある生徒たちを訪問できて、今日わたしは非常にうれしく思っています。
ミズ・テイクン・君にもここに上がってきてくれたからお礼を言わなければならないわね。ありがとう。
ジャレッド・どういたしまして。
ミズ・テイクン・みんなに君の名前教えてくれるかな?
ジャレッド・うん、いいよ。
クリントン・(クスクス笑いをする)。
ミズ・テイクン・で、お名前は?
ジャレッド・ジャレッドでーす。
クリントン・ジャレッド、君に会えてうれしいよ。
ジャレッド・ぼくもうれしいよ、大統領。
ミズ・テイクン・大統領閣下、過去数週間にわたってカトリック教会とあなたの間の関係についてはメディア上でいろいろ話題になりました。
クリントン・そうですね。あなた方の結構な教会に対して、特に教育の分野であなたたちが果たしている業績に関して、わたしは常に深い尊敬心を抱いています。今日このタルクイニウス小学校を訪れたのも正にそのことに対して感謝するために他なりません。この国におけるカトリック教会の学校システムはまことにすばらしいものであるとわたしは信じています。
ミズ・テイクン・大統領閣下ご自身も確かカトリックの学校で学ばれましたね?
クリントン・そうなんです。わたしはカトリック教会立の小学校で学びました。今でも優しかったシスターたちのことや、授業前のお祈りのことを良く覚えています。いや、懐かしいですねー。
ミズ・テイクン・その後ジョージタウン大学で学ばれましたね?
クリントン・そうなんです。確かあなたもわたしの後輩になるんですよね?
ミズ・テイクン・そうです、大統領。さて、ここに上がってきてくれた若いお友達に何かお聞きになりたいことがあれば、どうぞご遠慮なく。
クリントン・そうですね。ウー。ジャレッド君、スポーツは何が好きかな?
ジャレッド・ホワイトウォーター。
クリントン・え? 何だって?
ジャレッド・ぼくのお父さんはホワイトウォーター(川下りなどのスポーツ)が大好きなんだ。時にはぼくも筏乗りに連れてってくれるんだよ。
クリントン・分かった。ハハハ。いや、しばらくは君のお父さんが共和党員かと思ったよ、ジャレッド。
ジャレッド・ぼくはパブリカンって何のことが分からないよ、大統領。
クリントン・じゃー、民主党って何のことか分かるかな?
ジャレッド・民主党?
ミズ・テイクン・民主党よ、ジャレッド。民主党と共和党は政党なのよ。大統領は民主党(デモクラティック・パーティー)の中で一番偉い人なのよ。
ジャレッド・パーティーの中? 大統領って働かなくってもいいの?
ミズ・テイクン・もちろん大統領は一生懸命働くわよ。
クリントン・それで、ジャレット、わたしがやっている仕事をどう思うかね?
ジャレッド・そうだね。ぼくは大統領って大事な仕事だと思うよ。だってそれは大統領することなんでしょう?
クリントン・もちろん、君の言うとおり、ジャレッド。しかし、わたしが言いたかったのは——そうだね。君のお父さんのことを考えてみなさい。君たちが一緒に筏に乗っているときとか、家で夕食を一緒に食べているときとか、君のお父さんはわたしの仕事ぶりを誉めてくれるかね?
ジャレッド・(沈黙)
ミズ・テイクン・ジャレッド、あんた大統領の質問の意味は分かったの?
ジャレッド・はい、先生。えーと、お母さんがね、礼儀正しいことを言えないときは黙っているようにって、いつも言うんだ。だから今は何も言えないよ。
クリントン・うーん、それはいい躾だね、ジャレッド。しかし、外の人たちと仲良くやっていくためには何も完全に同意する必要はないんだよ。よく話し合えば、そして自分たちがどう感じるかを相手に告げると、案外自分たちには共通点もあることに気づくもんなんだ。
ジャレッド・ワー、大統領。あなたはバーニーと全く同じことを言ってるね。
クリントン・ほら、わたしが言ったとおりだろう? 君とぼくの間には共通点があるんだよね。だって両方ともスポーツが好きじゃないか? そして、二人ともカトリックの学校で学んでいるもんね——
ジャレッド・そうだよね。それから二人とも今年初聖体を受けたんだよね?
クリントン・うーん、あー。それはそのー、うー——
ジャレッド・大統領は、それでちゃんとひざまずいたの? それとも立ったままで受けた?
クリントン・え?
ジャレッド・あの方を受けたときのことですよ、大統領。
クリントン・だれを?
ジャレッド・イエズス様。
クリントン・だれ?
ジャレッド・イエズス様ですよ。
クリントン・ああ、分かったよ。あのウエハースのこと?
ジャレッド・いいえ、大統領。ウエハースでなくってイエズス様です。
クリントン・そうだね。わたしは立ったままだったよ。しかし、敬虔にね。外の信者の方たちと一緒にね。
ジャレッド・ぼくはちゃんとひざまずいたよ。
クリントン・そうかい、偉いね。わたしも尊敬を示すために頭を下げたんだよ。
ジャレッド・尊敬を示すって、彼に?
クリントン・そうなんだ。マコバネ神父様にね。
ジャレッド・そうではなくって、あの方に頭を下げたんではないの?
クリントン・わたしには君の言うことが理解できないんだが——
ミズ・テイクン・大統領閣下、ジャレッドが言っているのはあなたがマコバネ神父に頭を下げたのか、それともイエズス様に頭を下げたか、ということだと思いますわ。
クリントン・そうだね。両方にということにしておこうか。
ジャレッド・大統領は初聖体の前に罪を告解したの?
クリントン・君は実に頭のいい子だね。それは興味深く、複雑な質問なんだよ。告解についてわたしたちの見解は少し違うかも知れないね。わたしはバプティストなんだけど、わたしたちの教会に、君たちが告解と呼ぶ秘跡は存在しないのだよ。
ジャレッド・そうですか。それでも自分の中で良心の糾明をなさったのでしょう?
クリントン・良心の糾——何だって?
ジャレッド・ぼくの先生のミセス・ミラーがそう言ってたよ。イエズス様をいただく前には必ず良心を糾明しなければいけないんだって。先生はそれが聖書のコピント人への手紙に書いてあるって言ってたよ。だってぼくたちがいただくのはイエズス様の御体と御血なんだから。
クリントン・コリント人への手紙のことだよね。ぼくもあそこはよく読むんだよ。ぼくたちにはまた共通点がもう一つ増えたようだね。あれは良心の問題で、良心というのはとても大事なもので、時にはよく調べる必要もあるんだよな。
ジャレッド・リッキーのお父さんもそう言ってたよ。
ミズ・テイクン・リッキーってだれのこと?
ジャレッド・リッキーはお友達だよ。彼は三年生なんだ。リッキーのお父さんが言ってたよ。大統領は良心を糾明して反省しなければならないことがたくさんあるって(have
a lot on his conscience to exam)。
ミズ・テイクン・ジャレッド。それは大統領には考えなければならないことや、心配しなければならないことが沢山あるってことじゃないかしら(have
a lot to think about and worry about)?
ジャレッド・あ、分かった! だから大統領は告解に行ったり、良心の糾明をしたりしないで御聖体拝領をしたんだね!
クリントン・ジャレッド、わたしたちは今大人になって初めて分かるようなことについて話しているんだよ。つまり、プロトコルについて話しているんけれど、子供の君に分かるかな? それはね、つまり、家庭によって少しずつ決まりが違うようなもんなんだ。例えば君の家とリッキーの家のようにね。
ジャレッド・ぼくのお父さんが言ったよ。リッキーの家に行ったら、リッキーの家の決まりに従わなければいけないってね。
クリントン・そうなんだよ。プロトコルというのは、よその家に行ったらそこの人たちの気に入らないことをしないっていうことなんだよな。
ジャレッド・例えばげっぷをしないとかでしょう?
クリントン・そう。君は賢いね。
ジャレッド・ご飯の前に手を洗うとかもそうだよね、大統領。
クリントン・そう。
ジャレッド・ミラーさんが言ってたよ。告解はキリストの御体を始めていただく前にぼくたちの魂を洗い清めるんだって。これもプロトコルだよね?
ミズ・テイクン・ジャレッド、この場合のプロトコルというのはね、大統領が南アフリカに行ったときには、ご自分に期待されていたことをしただけっていうことなのよ。
ジャレッド・つまり、アフリカの神父様は、大統領が御聖体拝領をすることを期待したっていうことだね。
クリントン・さて、記録にもちゃんと残っていることだけど、礼拝の前に渡された当日のプログラムによると、確か、カトリックでない人たちもあのウエハースを受けることになっていたはずだよ。
ジャレッド・ウエハースって何? ヴァニラ・ウエハースなら知ってるけど——
クリントン・いや、そうではないんだ。プロトコルとか儀式とかについて君が決して忘れてならないのは、カトリック信者はあれがイエズスの体であると信じていても、バプティストはあれがパンにしか過ぎないと思っているということなんだ。
ジャレッド・マッカーシー神父様はリッキーに初聖体を許可しなかったよ。だって、リッキーはあれがただのパンだと信じていたから。しかし、リッキーはカトリックだよ?
クリントン・おそらく神父さんによってだれが御聖体拝領できるかについては意見が違うんだろうね。そして、どの神父も正しいとわたしは思うよ。
ジャレッド・神父様たちの中にはカトリックでない神父様もいるっていうこと?
クリントン・その問題についてはわたしもはっきり断定できないね。わたしにはどうもアフリカの司教様たちはアメリカの司教様たちとはやり方が違うんじゃない? 学校だって同じじゃないかな? ある先生は宿題が遅れてもあまり文句を言わないけど、厳しい先生だっているじゃないのかな? 考え方は違っていても、二人とも先生だよね?
ジャレッド・アメリカの司教様たちは御聖体がイエズス様の御体であると思っているけど、アフリカの司教様たちはそう考えていいなってこと?
クリントン・彼らがどう信じているかまでは分からないけれど、アフリカの司教たちはわたしのようにカトリック信者でない人たちも御聖体を受けられると決定したようだね。
ジャレッド・本当? ではリッキーもアフリカに行ったら、たぶん初聖体が許されるってことだよね! アフリカの神父様はあなたが何を信じているか聞いた? 彼に自分が信じていることを教えてあげたの?
クリントン・いや、彼は何も聞かなかったし、わたしも別に何も言わなかったよ。
ジャレッド・リッキーはこう言ってたよ。どこかよその教会に行って、自分が御聖体について何を信じているかそこ神父様に言わなければ、ちゃんと初聖体を受けることができるって。しかし、マッカーシー神父様がそんなことをしたら冒涜になるって言ったんだよ。
クリントン・そうかい、ジャレッド。先ほどわたしが話したプロトコルというのは大人の世界の約束事でとても複雑なんだよ。それはいろいろな行為についての約束事なんだ。君ももう少し大きくなって、もっと経験を積んだら理解できるようになると思うよ。
ジャレッド・わたしたちは初聖体前にカタクリズムを読んだけれど、そのー——プロトコルについては何も書いてなかったよ。
クリントン・君はもう字もよく読めるんだね。わたしだって時間があったら君のようにカテキズムを勉強してみたいもんだよ。そして、ここにいらっしゃる立派な先生たちから君たちみたいに毎日いろいろ教えてもらいたいものだね。
ジャレッド・大統領ってもう何でも知っていなきゃならなかったんじゃなかったの?
クリントン・ワハハハ! とんでもない。わたしだって知らないことは山ほどあるんだよ。だから、わたしのまわりには君のように頭のいい人たちが沢山いて、助けてくれるんだ。こういう人たちのことを顧問っていうんだよ。
ジャレッド・その人たちもアフリカに行ったの?
クリントン・もちろん何人かは行ったよ 君も大きくなったら大統領顧問になってわたしと一緒に旅行したくないかね?
ジャレッド・そうだな。顧問って何をすればいいの?
クリントン・彼らはわたしが何をすればいいか教えてくれるんだ。
ジャレッド・大統領はもう大きくなっているのに、そんなこと人から教えてもらわなければならないの?
クリントン・彼らはわたしがよその国に行ったときどのように行動すればいいか教えてくれるんだ。
ジャレッド・分かった。ぼくがリッキーのおうちに遊びに行くときのようにだね!
クリントン・そうそう。
ジャレッド・顧問たちは大統領にぼくの教会ではイエズス様がイエズス様だけど、アフリカの教会ではバニラ・ウエハースだって教えてくれるの?
クリントン・そうだね、ジャレッド。顧問たちによれば、人々にはいろんな信念があって、それはそれぞれとても大事なんだって。だからわたしも君の信念に反することをしてはいけないし、君だってぼくの信念に反することをすべきではないんだよ。
ジャレッド・大統領ってとても礼儀正しいんだね!
ミズ・テイクン・そうよ、ジャレッド。大統領が言いたかったのはそこなのよ。人の教会に行くときはお行儀よくしなければいけないのよね。あなたもそう思わない?
ジャレッド・そのとおりだと思いますよ、先生。だけど、もしぼくがバプティスト教会に行って、あの人たちのウエハースを食べたら、嫌がられないだろうかな?
クリントン・いや、ジャレッド、そんなことはないと思う。君はバプティスト教会の聖餐式に大歓迎されるはずだよ。
ジャレッド・エーッ? ぼくがイエズス様だと思い、あの人たちがクッキーだと思っていても、バプティストの人たちはぼくに聖餐式に歓迎してくれるの?
クリントン・そうなんだよ。わたしたちはそういうことを寛容とか、多様性の理解とか、他者に対する尊敬とか呼ぶんだ。その気になれば、いつか君だってわたしと一緒に聖餐式に出席することもできるんだ
ジャレッド・大統領は頭を下げる?
クリントン・多分ね。
ジャレッド・ぼくはひざまずこうかな。
クリントン・もしそうしたければ、それもいいんじゃない?
ジャレッド・だけど——大統領はなぜウエハースに向かって頭を下げるの? ぼくだったらクッキーに頭など下げたりしないよ。
ミズ・テイクン・ジャレッド、そろそろ他のお話をしたらどう? そうそう、大統領と学校のお話でもしてみたらどう? 大統領があなたぐらいの年だった頃学校が好きだったかどうか聞いてみたらどうかしら?
ジャレッド・ええ、そうします、先生——大統領は僕ぐらいの年だった頃学校が好きだった?
クリントン・大好きだったよ、本当に、ジャレッド。そして学校が好きだったから大学まで行ったんだよ。
ミズ・テイクン・大統領はとても学識のある方なのよ。大学(universities)には二つも行かれたのよ——ゴージャスタウンとフォックスフォードにね。
ジャレッド・イヤー、すごいなー。二つもの宇宙(universes)行くなんて、スター・トレックだけかと思っていた。帰ってくるときは大変だったんじゃない?
クリントン・そうさね。それは君が算数と物理学をよく勉強したら自分で分かるようになると思うよ。君はいつも宿題をちゃんとやってるかい?
ジャレッド・はい、大統領。してますよ。まあ、ほとんどの日は——ウーン、時にはしない日もあるけど——
クリントン・時として真実を話すって難しいんだよね。
ジャレッド・大統領になっても本当のことを話すって難しい?
クリントン・人生には困難が付き物なんだ。さて、ジャレッド、学校で一番難しい科目は何かい?
ジャレッド・今のところ宗教が一番難しい。僕二ページもあるレポート書かなきゃならないんだ!
クリントン・何について?
ジャレッド・ぼくたちの学校を見守ってくれる守護の聖人についてです。
クリントン・それは聖タル——ウーン——今思い出すからわたしを助けたりしないで欲しい——聖タル——
ジャレッド・タルチジウス。
クリントン・そう、そう。それで君は彼についてどういうことを知っているのかな? 待てよ。聖タルチジウスは女だったかな?
ジャレッド・彼は殉教者でした。
クリントン・そうかい、だれが彼を殺したの?
ジャレッド・異教徒たちだよ。
クリントン・ヘエー。何でそんなことをしたのかね、彼らは?
ジャレッド・彼は御聖体をキリスト信者の囚人たちの所に運んでいたんだよ。異教徒たちは彼にそれをよこせ、と言ったけど、彼は断ったんだ。
クリントン・たかがウエハースなのに何で断ったりしたんだろうね?
ジャレッド・それがイエズス様だったからなんです、大統領。
ミズ・テイクン・さて、そろそろ時間が来たようね。大統領閣下、お忙しいところを本当によくお越し下さいました。
ジャレッド・アッ、大統領、最後に一つだけ質問していいですか?
クリントン・もちろん。
ジャレッド・僕はまだ子供で、あなたは大統領です。だから、硬くなったりしなかったと思うんだけれども、もしかしたら緊張した?
クリントン・緊張?
ジャレッド・えー、初聖体の前に。
クリントン・ウーン、アー——わたしは、アー——
ジャレッド・ぼく緊張したよ。舌を出して御聖体を受けたとき、ぼく息止めたんだ。兄ちゃんが言ってたよ。イエズス様を飲み込んでしまうまでは息を止めていた方がいいんだって。だから、ぼくは息を吸い込むことすらしなかったんだ。大統領はどうだったの?
(念のために申し添えますが、以上はもちろん風刺です。編集者)