視点 1990年代の家族計画
筆者 ボブ・ライダー & ヒューバート・キャンベル
雑誌 THE LANCET Vol. 346 1995年7月号233 〜234から
Department of Endocrinology, City Hospital
NHS Trust, Dudley Road, Birmingham 818 7QH,
UK (Prof. H.Cambel)FRCP)
Correspondence to: Dr. Bob Ryder
素人にとって、自然に基づく家族計画(NFP)は「リズム法」もしくは「バチカン・ルーレット」に他なりません。つまり、わたしたちはNFPと聞くと、計画外妊娠とか大家族を連想させる、あまり当てにならない方法であると思ってしまいがちです。一般的には、科学者や医学者たちでさえ同様な考えを持ち、彼らが雑誌に寄稿する記事にしても、NFPについてあまり高い評価をしていないのが普通です。例えば、ランセットに寄稿したジョイス・プール博士の論文を読むと「NFPは…数多くの信頼に値する実験の結果、教育程度が低く、女性の衛生状態が悪い国では効果が上がっていないことが証明されている」1と宣告されています。しかし、彼女はこれらの実験の参照箇所については一言も触れていません。また、同様の評価をしてきた他の学者たちは、NFPのビリングス排卵法に関して、WHOが1959〜79年実施した多センター方式調査2−6を引き合いに出します。その研究に関しては、わたしたちの仲間(HC)の一人が、医学統計官でした。その研究の第一目的は、異なる文化に属する女性たちの中何%が、排卵時に子宮頸管粘液の変化を認識できるようになるか確認することでした。オーストラリア女性に関しては、1972年、すでに調査がなされていました7。第2目的は、この変化が認識できたとすると、果たして女性たちがこの変化を受胎コントロールのために使用するかを突き止めることでした。第3目的は、これらの観察に影響のある社会的、医学的、主観的要素を調査することでした。つまり、WHO調査の第一義的目的は、受胎コントロールの実験ではなかったのです。その主な結論は以下のものでした。(a) 文化的、教育的、経済的背景の違いにかかわらず、受胎可能な女性たちの中95%が、受胎可能を示す粘液徴候を見分けることができ、またその意志がある(b)障壁法とかホルモンによる避妊をせずに、普通の夫婦生活を送るこれら受胎可能な女性たちの中で、受胎するのは100人中年間2.6人である(c)NFP排卵法の規則によって受胎不可能と指定される排卵前後の数日は、この期間の妊娠が1000回の性交の中わずか4回だけであったので、この期間は確かに受胎不可能と考えられる(d)受胎可能と指定された期間は、この期間内の性交が排卵日に近ければ近いほどしばしば妊娠したという結果からして、確かに受胎可能であった(粘液徴候のピーク日に性交があった場合、3回に2回は妊娠した)。
現在、わたしたちは、排卵時には生卵の白身のようになる子宮頸管粘液が、正確に排卵があることを教えてくれ8、それが受胎するために絶対必要であることを知っています9,10。子宮頸管粘液には異なる機能を持ついくつかの部分があると考えられます。G型粘液は、不妊期間に分泌され、子宮頸管下部に、精子の進入を防ぐ障壁を形成します。L粘液は、エストロゲンのレベルが上昇するとき分泌され、不良精子の通過を妨害します。S型粘液は、優良な精子を、L型粘液を通過させて、子宮頸管上部にある貯蔵腔に導きます。その貯蔵腔は粘液によって時が来るまで、しっかり、ふたがかぶされます。P粘液は排卵直前に分泌され、Z分泌液と共にその粘液のふたを溶解し、子宮頸管貯蔵腔から精子を解放し、授精に向かう旅を助けます9,10。WHOの実験を通じて獲得された知識とその後の経験は、NFP諸団体や指導者たちの受胎期・不妊期についての理解度を高め、そのために平均妊娠率は確実に下降線をたどっています。以下は、(回教、ヒンズー教、仏教、キリスト教文化を含む)現在に至るまでの1990年代平均受胎率です。
国 | 妊娠数/100女性年 | Rof |
英国 | 2.7 | 11 |
インドネシア | 2.5 | 12 |
インドネシア | 10.3 | 12 |
インド | 2.0 | 13 |
ドイツ | 2.3 | 14 |
リベリア | 4.3 | 15 |
ザンビア | 8.9 | 15 |
ヨーロッパ | 2.4 | 16 |
中国 | 4.4 | 17 |
ベルギー | 1.7 | 18 |
妊娠数が5以上の研究は、すべて、NFPの方法とか教え方とまったく異なる方法の結果です。これらの結果は、動機がはっきりした夫婦においての諸人工避妊法による0.18〜3.6の妊娠率と比較できます19。動機がそれほどはっきりしていない夫婦においての人工避妊法による妊娠率はこれよりはるかに高くなり得ます。実際、20%以上はあるかもしれません20,21。
NFPが完成される前に実施された調査による妊娠率に言及するのは、あまり役立ちません。
NFPに費用がかからないことで、プール、その他の人々が、短絡的にそれを発展途上国向きであるとするのも、いささか見当違いであるようです。経済的状態に関わりなく、また避妊ピルとかコンドームの販売元に頼ることなく、夫婦が受胎をコントロールできるようになるのは、この方法によってのみです。NFPによって夫婦は受胎することでも、受胎を避けることでも選択できます。妊娠を願う夫婦には極めて高い受胎率が可能になります。受胎を避けなければならない強い動機のある夫婦は、ほぼ確実に受胎を避けることができます(カルカッタの貧民窟に住む貧しく、無学な人たちを対象に行われた調査によるとその率は限りなく0に近づきます22−25)。
NFPに関する一つの批判は、必要になる禁欲期間が夫婦関係と家庭にとって不和の原因になるということでした26。そしてそのような禁欲は不自然であるとも批判されました。似たような理由で、多くの人たちは経口避妊ピルの簡単な入手可能性が、結婚生活、家庭、夫婦、子供たちにとって良い影響を及ぼすだろうと考えたものです。ところが、経口避妊ピルの使用が増えるにつれて、結婚と家庭崩壊も急速な増加を見たのです。時間的な連関は、両者の関係を証明するものではありませんが、ビリングス博士夫妻は27、人工避妊が目指すところ、つまり「性交が、常時、可能になることは…どの結婚を取ってみても非現実的であり、それは結婚崩壊への道を開くものである」と言います。
NFPの批判者たちは、男性が協力しなければならないし、そんなことができるわけはない、と苦情を言います28−29。賛同者たちはこのような男性軽視に反対し30、男女に要求される協力こそNFPの力であるのではないだろうかと言います31。ジャーヴィスが言っているように「NFPが成功するためには夫婦の理解と協力が欠かせません。それだけでなく、夫婦の関係が成功するために、性交に関して妻が夫の要求通りにならねばならない夫婦の場合、避妊ピルではなくカウンセリングが必要です。性交は、愛の親密な表現、自由な雰囲気の中でなされる選択であって、『抵抗できない』肉体の要求を満足させるためにパートナーを乱用するための手段などではありません」30いくつかの国—特に発展途上国—では、女性は妻は夫の要求にいつでも応じるべきであるといわれます29。しかし、たとえそういう場合であっても、NFPが夫婦互いに要求する規律は、夫婦の調和を増進し、二人の関係を深めるのです31,32。特に女性は、禁欲期間に、彼女らが好む性交によらない愛情の身体的表現を促し、これが夫婦の愛情を深めることを報告しています31。受胎可能期間は性欲が高まるので29、その期間の禁欲は好ましくないとある人たちはNFPに反対しますが、他の人たちは受胎可能期後の性交再開が「毎月のハネムーン」になり、性的関係にとっては利益が大きいのではないか、と考えます。過去20〜30年に起きた「性の革命」は、夫婦と家庭の大規模な崩壊を招き、多大な損害を与えているといわれます33。NFPは良い毒消しになるのではないでしょうか。
人工避妊とNFPの相対的価値についての意見がたとえどちらであっても、女性の権利を擁護したい人であれば、世界中の女性が一人残らず、これほどたやすく、また、だれにでも識別できる、排卵に伴う徴候について知らされていないことが気になるはずです2,24。女性は生理周期の間わずか6〜8日間しか受胎可能期間がでないのですから24、これらの分かりやすい徴候は、自分たちの受胎に関する状態について夫に教える情報を通じて、女性たちに力を授けるのです。多くの女性は人工避妊法に不満を持っているのに、NFPの選択があることを知りません。同様に、妊娠したいのにできない受胎能力の低い女性たちにも、彼女たちのチャンスを高めるはずのこの基本的知識が与えられていません。環境論、女性論、経済、家庭、または単に常識論からこの問題を考えるとしても、すべての女性はこの簡単かつ基本的情報に対する権利があるのです。
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(原文のまま)
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