最近読んだ本から
腱鞘炎でキーボードから遠ざからねばならなかったので、何冊か本を読みました。以下はその読後感です。9.4
Deconstructing Gender
Babette Francis
An Endeavour Forum Inc.
15pp
フェミニストの主張点…男女の差は環境と教育による、女の子にお人形を与えるのは止めよう、男女の区別はなくしよう、女も男と同じく自由であるべし…しかし、男女の差は染色体による生来のもの。ブルースとブライアン・ライマーは一卵性双生児。包皮除去(割礼)手術の失敗のため、ブルースのペニスは失われてしまった。元に戻すことができないと悟った医師達は、ブルースを女の子として育てることを両親に勧告し、ジョンス・ホプキンス大学のジョン・モニー博士を紹介した。博士はそのような手術・育て方に何ら問題がないことを両親に保証。ブルースの名前もブレンダに変更され、何度も手術を重ねながら、ブルースは女の子として育っていくはずだったが、結局は大失敗。男は男、女は女なのです。
Chuck DeVore & Steven W. Mosher
China Attcks
Infinity Publishing Company
US$19.95
415pp
" Hegemon" (ヒジェモン・原語ははギリシヤ語)という言葉は日本語でいえば覇者とかリーダーということです。ニクソン大統領の補佐を勤めていたキッシンジャー国務長官が国交回復のために中国を訪れていた時、中国側がこの言葉を使用して、本人も側近も誰も理解することができず、また、その言葉の意味を中国側に聞くこともできず、辞書を探してキリキリ舞いしたという曰く付きの言葉です。中国という言葉が意味するとおり、中国は世界の中心であるというのが中国の建前と本音です。
であれば、台湾の存在は中国にとっては我慢なりません。ある年、中国は目と鼻の先にある金門島と馬祖島を強襲する構えを見せます。台湾側は金門島と馬祖島の戦力を増強させます。が、本命は台湾自体でした。裏をかかれた台湾側はたまたま台湾海峡を通過中であった米国海兵隊・海軍の協力も得て、応戦するものの、中国側の水爆攻撃もあり、敗戦寸前に追い込まれます。しかし、金門島に送り込まれていた台湾軍は防備が手薄になった中国本土を攻略し、同時に、中国でも不満が重なっていた民衆が共産政権に反乱を起こし、共産政権が崩壊し、一般民衆に12万5千人の犠牲を出しながらも、10万人の共産党員が殺害もしくは処刑され、また、20万人以上の共産党員が裁判のために投獄され、中国革命が成立するという血湧き肉躍る物語。
ただ、装丁が悪いために、読み終えた時点で、本がバラバラになってしまったのは残念。それでよかったら欲しい人に上げますよ。著者の一人で友人のスティーヴ・モーシャー氏にはチャイニーズ・マザー上巻と下巻の邦訳(各1800円・祥伝社)が、あります。
Steven W. Mosher
Broken Earth: The Rural Chinese
Robert Hale/London
317pp
1979年、革命の成果を誇示したかった中国は米国との学術交換の一環として社会学者スティーヴ・モーシャー氏を招聘。彼は珠河をさかのぼった広州郊外の農村に住み着き、中国農村事情を調査・研究する。中国側の思惑に反し、モーシャー氏は中国社会の矛盾点を次々に発見していく。たとえば、農民の生活が革命の結果改善された…これは共産党の宣伝であることにわたしも始めて気づかされた。農民にとっての保証は男の子。双子の男の子達を中絶させられたある農民は、それを強制した共産党幹部の家に行き、10歳と11歳の息子を井戸に放り込み、自分もその井戸に飛び込んで自殺するという事件について報告している。共産党員自身がもはや共産党のイデオロギーを信じておらず、ひたすら党員の権力維持しか頭にない…など、英語ができる人にはお勧め。
China's Plan to Dominate
Asia and the World
Hegemon
Steve Mosher
Encounter Books, San Francisco
193pp
紀元前から中国は世界一の人口、経済、軍隊を誇っていた。中国は世界の中心…だから、英国が19世紀に通商・国交を求めた時も、清朝は英国から何一つ得るところ無し…という判断で、使節を冷遇し、国王ジョージ三世に無礼極まる返書を送った。別の本にあるこの返書を読むと常識では考えられない高慢・横柄な手紙である。いわゆるアヘン戦争(1839-42、1856-60)はそのしっぺ返しに当たる。日本を含む列強の干渉に中国は現在に至るまで傷つき、復讐を図っている。元来、ヒジェモン、つまり覇者という概念は世界を治める絶対君主・独裁者が存在する時、初めて世界が平和になることを意味するから、中国はアジアの覇者のみならず、終局的には米国もうち倒し、世界の覇者になることを企んでいる。そのために手段は選ばない。しかるに、ニクソン・キッシンジャー外交に始まり、米国の諸政権は弱腰。レーガン大統領のみがその点では及第。
台湾侵攻は夢物語ではない。準備は整いつつある。防衛ミサイル、第七艦隊の増強、アジア諸国と米国の同盟関係強化を怠ってはならないが、最大の防衛は安定して繁栄している民主台湾の存在。その秩序ある自由の元に台湾が存在し続けることは、中国の混乱に対する唯一の回答が共産主義・マルキシスト市場主義とする中国の主張をうち砕く。だからこそ、中国は台湾侵攻を本気で検討するし、自由世界、特に米国は台湾防衛の責を持つ。台湾の存在と繁栄は中国共産主義社会の矛盾を暴露する。中国が台湾を攻撃したい理由はここにある。台湾が中国の道標になるためにも台湾防衛のためには必要な手段が取られなければならない。
The Sinking of the USS Indianapolis
and the Extraordinary Story
of Its Survivors
In Harm's Way
Doug Stanton
Henry Holt Company
334pp
正直に言おう。わたしの弱点は潜水艦とか駆逐艦のお話し。読む暇あるかな?と思いながらも買ってあったこの本…日本語でタイトルを付けると「危険海域に(向けて出航)」だろうか?
爆撃機エノーラ・ゲイによって広島に落とされた原爆リットル・ボーイの側面には" This one is for the Boys of the Indianapolis" (インディアナポリス号乗員の仕返しだ!)と書いてあったそうだ。その原爆を米国からテニアン島に運んだ巡洋艦インディアナポリス(艦長チャールス・バトラー・マクヴェイ三世)が、その後日本本土攻撃訓練のためレイテ島に向かう途中、日本の潜水艦伊-58号(艦長橋本持貫、終戦後神主になった)が放った二発の魚雷を受けて撃沈された時の物語。この際、神風魚雷の回天は使用されなかった。その必要がなかったのだ。1945年7月30日の出来事。乗組員1200名の内300名がほぼ即死。その後、海に飛び込んだ士官と水兵たちで生存した者は317名。約600名が4日後の救助を待たずに溺死したり、鮫に食われたりして生命を失うことになる。従軍司祭が海の中を泳いで回り信者の告解を聞くシーンもある。こういう場合、のどの渇きに負けて海水を飲むと確実に死ぬこともここで知った。浮き輪をつけたまま海面に突っ伏してしまった水兵を励まそうとすると、下半身は鮫に食われてしまっていたなど…物語は痛ましい。
マクヴェイ艦長は後に軍事法廷で有罪の判決を受ける。その理由はジグザグ航法を怠ったということ。日本側から法廷に証人として喚問された橋本氏がジグザグ航法は魚雷回避に役に立たないと証言したにもかかわらず…実は、インディアナポリスに護衛を付けなかった海軍にこそ本当の落ち度があった。また、沈没直前に打った無電の救助依頼をレイテ島で受けていたにもかかわらず、確認の無電に対する応答がなかったという理由で、一旦タグボートを派遣しておきながら、途中でそれを呼び戻すというノーマン・ジレット准将の失態は法廷で無視された。軍事法廷はこれほど多数の犠牲者が出たことで、だれかに責任を取らせる必要を感じていたらしい。大戦中撃沈された400隻の米海軍艦長の中で、彼だけが軍事法廷で裁かれている。本書は部下から深く慕われていたマクヴェイ艦長の無実を証すために書かれたもの。艦長は遺族からのヘイト・メールを受け続け、痛ましいことに1968年ピストル自殺をしている(ノーマン・ジレット准将には、筆者つまりわたしが米国で会っている。その際、この話はもちろん出なかったが、彼のその後の生き方、死に方を知っているわたしに、彼に関する記述は興味深かった。メーリングリストのメンバーには後にメールを送る)。
広島に人類の歴史上始めて落とされた原子爆弾は、非戦闘員である広島市民35万人の中11万8千人以上を即死させた。その年の末までに死亡したのは14万人になる。戦争と憎しみはいけないことだ。
The Soul of a Lion
Dietrich Von Hildebrand
A Biography by Alice Von Hildebrand
Ignatius
322pp
著者の献辞がある本書は私の宝物。ピオ十二世から今世紀の聖トマス・アクイナスと言われたディートリッヒ・フォン・ヒルデブランドの伝記。その父アドルフは高名な彫刻家。ディートリッヒはヒトラーから国民の敵ナンバー1としてつけ狙われるほどナチズムを厳しく批判した。神様への信頼、勇気がなければできないこと。度重なる摂理的干渉による逃亡劇は圧巻。彼と妻の改宗に続く友人たちの改宗について読むと、彼を通じて神の恩寵が地上に流れたことが目に見えるよう。こういう本こそ訳されて多くの人々に読まれて欲しい。
Flawed Expectations
The Reception of the Catechism of the Catholic Church
Msgr. Michael J. Wrenn & Kenneth D. Whitehead
Ignatius
418pp
「カトリック教会のカテキズム」英語版が出るまで、そして出てからの物語。妨害と批判がこれほどにも多いとは! いわゆるフェミニスト用語採用による翻訳者自身による妨害もさることながら、出てからの批判は執拗。「カトリック教会のカテキズム」の解説と銘打って出される大部の解説書は批判が多い。しかも不当な批判が…このカテキズムが全世界の司教様方の代表によって書かれたというのに、一部の神学者は自分の意見の方が正しいと言う。執筆・編集の段階で司教たちには広くアンケートが送られ、要望は広く採用されている。日本の司教たちもそのアンケートを受け取ったが、一人としてアンケートに応じた方はいない。ただ、シスター菊池多佳子のみがアンケートに答えて有益な提案をしたため、ヴァティカンからは翻訳者としてこのシスターを指名したほど。ただし、彼女の優れた翻訳は日本の司教様方によって改変されてしまった。正しい、正確な翻訳でこの「カトリック教会のカテキズム」が日本でも翻訳されることが望ましい。